株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、リサイクル炭素繊維世界市場を調査し、参入企業の動向、将来展望を明らかにした。ここでは、リサイクル炭素繊維(rCF)回収量の予測について、公表する。
1.市場概況
炭素繊維とプラスチックのコンポジット材料である炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)は、航空機や風力発電、圧力容器、自動車、スポーツ・レジャー用品など幅広い分野で使用されており、そのワールドワイドの市場規模は2022年で148,900t(弊社推計値)にのぼる。このうち、生産工程内でCFRP端材は年間15~16%程度排出されたものと推計する。この工程内端材と、市中に出ているCFRP最終製品のうち、耐用期間を過ぎて2022年に廃棄された量を合算した2022年のCFRP廃棄物の量は55,610tにのぼると推計した。CFRP市場の拡大とともに、この量は増え続ける見込みである。
一方、2022年に排出されたCFRPの端材・廃材55,610tのうち、リサイクルに回る量は約7%弱と極めて少量にとどまる。さらに、リサイクルに回ったCFRP端材・廃材からマトリクス(母材)樹脂を分解して、取り出されたリサイクル炭素繊維(以下、rCF)回収量を2,050tと推計する。rCF回収量をPAN系炭素繊維(vCF:バージンCF)生産量(弊社推計値)規模と比較すると、PAN系vCF生産量の2~3%に相当する。CFRP市場の拡大に伴い、rCF回収量も増えてくる見込みで、2030年のrCF回収量は4,400tになるものと予測する。
CFRP端材・廃材のリサイクル技術開発が進む一方で、実際のリサイクル量が少量にとどまっている背景には、rCFの品質や安定調達、用途開発という点での課題が未だ大きいことが挙げられる。特に、品質はrCFの出口用途の確保にも直結する問題であり、CFRPリサイクル拡大のためにも早急な解決が求められている。
1.市場概況
炭素繊維とプラスチックのコンポジット材料である炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)は、航空機や風力発電、圧力容器、自動車、スポーツ・レジャー用品など幅広い分野で使用されており、そのワールドワイドの市場規模は2022年で148,900t(弊社推計値)にのぼる。このうち、生産工程内でCFRP端材は年間15~16%程度排出されたものと推計する。この工程内端材と、市中に出ているCFRP最終製品のうち、耐用期間を過ぎて2022年に廃棄された量を合算した2022年のCFRP廃棄物の量は55,610tにのぼると推計した。CFRP市場の拡大とともに、この量は増え続ける見込みである。
一方、2022年に排出されたCFRPの端材・廃材55,610tのうち、リサイクルに回る量は約7%弱と極めて少量にとどまる。さらに、リサイクルに回ったCFRP端材・廃材からマトリクス(母材)樹脂を分解して、取り出されたリサイクル炭素繊維(以下、rCF)回収量を2,050tと推計する。rCF回収量をPAN系炭素繊維(vCF:バージンCF)生産量(弊社推計値)規模と比較すると、PAN系vCF生産量の2~3%に相当する。CFRP市場の拡大に伴い、rCF回収量も増えてくる見込みで、2030年のrCF回収量は4,400tになるものと予測する。
CFRP端材・廃材のリサイクル技術開発が進む一方で、実際のリサイクル量が少量にとどまっている背景には、rCFの品質や安定調達、用途開発という点での課題が未だ大きいことが挙げられる。特に、品質はrCFの出口用途の確保にも直結する問題であり、CFRPリサイクル拡大のためにも早急な解決が求められている。
2.注目トピック~CFRPリサイクル技術の動向: 熱分解法に加え化学分解法が実用段階に~
CFRPからrCFを回収するリサイクル方法としては、既に実用化されている熱分解法、サンプルワークが進展し実用化が近い化学分解法が挙げられる。
熱分解プロセスでは、CFRPは常に無酸素状態で加熱され、CFを酸化劣化させずに樹脂を除去する。CFはその製造工程で2,000~3,000℃の高温で黒鉛化されており、マトリクス樹脂が分解する500~800℃程度の温度に晒されても大幅な強度低下は生じない。日本国内のリサイクラー(再資源化業者)では、外熱式や熱風循環方式、過熱水蒸気法が主に採用されている。
一方、化学分解法によるCFRPリサイクルは、アルコール類や超臨界流体等の反応媒体を利用し、低温下(350℃前後)でその反応が進むことを活用した分解方法で、加溶媒分解法や超臨界流体/亜臨界プロセス、流体処理等がある。溶剤を使用する方法は、特性劣化の少ないrCFを回収することが出来る利点があるが、溶剤の処理にコストがかかるデメリットも存在する。
化学分解法は、日本国内においては2010年代半ば頃まで、プロセス研究の域を出ていなかったが、ここ数年で開発が急速に進展し、サンプルワークも活発に行われている。特に近年、カーボンニュートラル対応が厳しく求められるようになる中、熱分解法のように大きなエネルギーを必要とせず、炭化したマトリクス樹脂の残存などどの異物の問題も無い化学分解法は熱分解法よりもCO2発生量が少ない技術として注目されている。
3.将来展望
rCFの品質では、CFRPから熱分解や化学分解によって取り出される過程で、炭素繊維にかかる熱や化学品によりダメージを受ける他、炭化したマトリクス樹脂の在留や分解しきれなかった樹脂成分がrCF表面に残るケースもあり、外観だけでは炭素繊維のダメージがどの程度なのか判断できない。そのため、特に自動車、航空機、圧力容器など安全性が人命に直結する用途分野では、ユーザー企業サイドとしてもrCFの本格採用については品質保証という点での不安が払拭できない状況となっている。これに対し、日本においては、rCFの評価試験法確立への取組みが産官学連携で実施されている。
また、rCFの使用にあたり、品質と共に重視されるのが、材料として安定調達できるかという問題である。そこで求められるのがCFRP端材・廃材を資源として回収するシステムとルートの構築である。廃棄物として処理されている端材・廃材を確実に回収し、それをリサイクルに回すことが出来ればrCFの安定供給にもつながる。
rCFの用途開発では、rCFの繊維長はvCFよりも短いため、vCFと同じような使い方での水平リサイクルは難しい。単純に炭素繊維の長さだけを見れば、長繊維のvCFから短繊維のrCFへとダウンサイクルしたともいえるが、rCFには脱炭素やサステナブルというバージン材にはない環境面での価値が付与される。これを不織布やコンパウンドペレットに加工し、既存の材料では実現できなかった使い方で、材料としての付加価値を高め、さらに環境価値を付与できれば、これまでvCFが使いにくかったような新たな用途開発も可能になると考える。
※掲載されている情報は、発表日現在の情報です。その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3390
調査要綱
1.調査期間: 2023年8月~10月
2.調査対象: 炭素繊維メーカー、炭素繊維リサイクラー、リサイクル炭素繊維ユーザー企業、研究機関等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
4.発刊日: 2023年10月31日
お問い合わせ
⇒プレスリリースの内容や引用についてのお問い合わせは下記までお願いいたします。
株式会社矢野経済研究所 マーケティング本部 広報チーム
https://www.yano.co.jp/contact/contact.php/press
株式会社矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/
CFRPからrCFを回収するリサイクル方法としては、既に実用化されている熱分解法、サンプルワークが進展し実用化が近い化学分解法が挙げられる。
熱分解プロセスでは、CFRPは常に無酸素状態で加熱され、CFを酸化劣化させずに樹脂を除去する。CFはその製造工程で2,000~3,000℃の高温で黒鉛化されており、マトリクス樹脂が分解する500~800℃程度の温度に晒されても大幅な強度低下は生じない。日本国内のリサイクラー(再資源化業者)では、外熱式や熱風循環方式、過熱水蒸気法が主に採用されている。
一方、化学分解法によるCFRPリサイクルは、アルコール類や超臨界流体等の反応媒体を利用し、低温下(350℃前後)でその反応が進むことを活用した分解方法で、加溶媒分解法や超臨界流体/亜臨界プロセス、流体処理等がある。溶剤を使用する方法は、特性劣化の少ないrCFを回収することが出来る利点があるが、溶剤の処理にコストがかかるデメリットも存在する。
化学分解法は、日本国内においては2010年代半ば頃まで、プロセス研究の域を出ていなかったが、ここ数年で開発が急速に進展し、サンプルワークも活発に行われている。特に近年、カーボンニュートラル対応が厳しく求められるようになる中、熱分解法のように大きなエネルギーを必要とせず、炭化したマトリクス樹脂の残存などどの異物の問題も無い化学分解法は熱分解法よりもCO2発生量が少ない技術として注目されている。
3.将来展望
rCFの品質では、CFRPから熱分解や化学分解によって取り出される過程で、炭素繊維にかかる熱や化学品によりダメージを受ける他、炭化したマトリクス樹脂の在留や分解しきれなかった樹脂成分がrCF表面に残るケースもあり、外観だけでは炭素繊維のダメージがどの程度なのか判断できない。そのため、特に自動車、航空機、圧力容器など安全性が人命に直結する用途分野では、ユーザー企業サイドとしてもrCFの本格採用については品質保証という点での不安が払拭できない状況となっている。これに対し、日本においては、rCFの評価試験法確立への取組みが産官学連携で実施されている。
また、rCFの使用にあたり、品質と共に重視されるのが、材料として安定調達できるかという問題である。そこで求められるのがCFRP端材・廃材を資源として回収するシステムとルートの構築である。廃棄物として処理されている端材・廃材を確実に回収し、それをリサイクルに回すことが出来ればrCFの安定供給にもつながる。
rCFの用途開発では、rCFの繊維長はvCFよりも短いため、vCFと同じような使い方での水平リサイクルは難しい。単純に炭素繊維の長さだけを見れば、長繊維のvCFから短繊維のrCFへとダウンサイクルしたともいえるが、rCFには脱炭素やサステナブルというバージン材にはない環境面での価値が付与される。これを不織布やコンパウンドペレットに加工し、既存の材料では実現できなかった使い方で、材料としての付加価値を高め、さらに環境価値を付与できれば、これまでvCFが使いにくかったような新たな用途開発も可能になると考える。
※掲載されている情報は、発表日現在の情報です。その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3390
調査要綱
1.調査期間: 2023年8月~10月
2.調査対象: 炭素繊維メーカー、炭素繊維リサイクラー、リサイクル炭素繊維ユーザー企業、研究機関等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
4.発刊日: 2023年10月31日
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