株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、ディスプレイ・光学、電気・電子、一般産業用のベースフィルム及び加工フィルムなど、国内外の高機能フィルム市場(日本、韓国、台湾)を調査し、製品セグメント別の動向、参入企業の動向、将来展望を明らかにした。ここでは、2021年実績を100とした場合の各フィルムの市場規模増減状況について、公表する。
1.市場概況
高機能フィルム市場(日本、韓国、台湾)はコロナ禍の巣ごもり特需による拡大から一転し、2022年5月頃からスマートフォンやTVなど最終製品を生産するセットメーカーが余剰在庫の調整や生産調整を進めた影響を受けて大幅に縮小した。ディスプレイ部材・FCCL(Flexible Copper Clad Laminate)などのフィルム部材メーカーや、それらの生産工程で使用される保護フィルム、リリースフィルムなどの副資材を生産するコンバーター、さらにその原反を供給するフィルムメーカーに至るまで連鎖的に大きく販売量を落とす結果となった。
2023年に入るとセットメーカーの余剰在庫が整理され、生産調整がほぼ終了したことから、高機能フィルム市場は再びプラス成長に転じている。ただ、回復の速度は需要縮小の勢いに比べ弱く、V字回復が期待できるほどではない。
2021年実績を100とした場合の2024年の出荷数量予測は、PIフィルムが107.2%、MLCCリリースフィルムは97.2%、一般産業用PETフィルム94.6%、光学用ペットフィルム94.0%と、2021年の需要レベルに戻るのは2024年から2025年頃になる見通しである。
2.注目トピック~PETフィルム:2023年は韓国でV字回復の期待も、日本は緩やかな回復速度となる見通し~
2022年のPETフィルム市場は、セットメーカーや部材メーカーの在庫調整・生産調整の動きが夏頃から顕著となり、例年であれば需要期となる10月以降も戻らなかった。そのため、下半期以降、PETフィルムの多くの用途でオーダーが激減した。中には例年の出荷数量の50~60%程度にも満たないものも出てくるなど、比較的堅調であった上半期の実績を合わせても、2022年のPETフィルム市場規模(光学用+一般産業用、メーカー出荷数量ベース)は前年比79.5%の49万6,600tまで縮小した。
セットメーカーや部材メーカーによる在庫調整・生産調整の動きは特に韓国において顕著であったため、韓国のPETフィルムメーカーの販売量の下げ幅は日本勢、台湾勢に比べ大きかった。ただ、韓国では生産調整・在庫調整が急ピッチで進められた分、底を打つのも比較的早く、2022年末から2023年初め頃にはPETフィルム需要が回復に転じ、2023年3月~4月頃からはそのスピードも速まっているものと見られる。
一方、日本においてはセットメーカーや部材メーカーによる在庫調整・生産調整は2022年の比較的早い段階から少しずつ実施されはじめ、2023年3月頃まで緩やかに続いた。2021年レベルへの回復は2024年から2025年頃までかかる見通しである。
3.将来展望
日本のフィルムメーカーは、生き残りのための方策として、Film to Filmリサイクルに代表される「環境」にフォーカスした技術開発と提案を進めており、資源循環やカーボンニュートラル(CN)を新たな競争の枠組みとしていくことが考えられる。
環境対応は目新しい用途開発や新規需要の取り込みに直結するわけではないものの、あらゆる業界でCNやサーキュラーエコノミーが重要課題となっている現在、材料・部材・副資材のサプライヤーとしてユーザー企業の環境対応ニーズにどう応え、何を提案できるかは、フィルムメーカーの新たな競争軸となり得るだろう。
Film to Filmリサイクルは単に使用済製品を再溶融して樹脂に戻すだけでなく、厚み精度やフィルムの品質をユーザーの要求スペックに保ちながら製膜する必要があり、技術的難易度が高い。特に使用済フィルムを原料とするポストコンシューマーリサイクル(PCR)※では、回収されたフィルムの用途や施されていた加工によって異物が多いケースもある。偏光板用のプロテクトフィルム、リリースフィルムやMLCCの生産プロセスで使用されるリリースフィルムなど、高平滑・無異物・無欠陥といった高い品質管理が求められる製品をリサイクルするにはバージン材を使用する場合以上の製膜技術、品質管理技術が要求される。ここに日本のフィルムメーカーにとっての新たなビジネスチャンスがあると考える。
リサイクル製品の製造は、使用済製品の回収、洗浄・異物除去などにコストがかかるためもバージン製品よりもコストアップとなる。そのため、フィルムメーカーやコンバーターは、リサイクルコストとユーザーの許容価格とをすり合わせながらコストダウンに向けた技術開発を行っていく必要があるが、利益が確保できないほどのコストダウンは避けなければならない。
日本にしかないFilm to Filmリサイクルのスキームと技術、それを背景にしたフィルムの品質で「リサイクル品の相場(=新たな価値)を作りだす」意気込みでの展開が求められている。
※ポストコンシューマーリサイクル(PCR):消費者による使用後、回収された使用済みの製品を再資源化すること
※掲載されている情報は、発表日現在の情報です。その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3329
調査要綱
1.調査期間: 2023年4月~7月
2.調査対象: フィルムメーカー、コンバーター(日本、韓国、台湾)
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
4.発刊日: 2023年07月31日
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株式会社矢野経済研究所 マーケティング本部 広報チーム
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高機能フィルム市場(日本、韓国、台湾)はコロナ禍の巣ごもり特需による拡大から一転し、2022年5月頃からスマートフォンやTVなど最終製品を生産するセットメーカーが余剰在庫の調整や生産調整を進めた影響を受けて大幅に縮小した。ディスプレイ部材・FCCL(Flexible Copper Clad Laminate)などのフィルム部材メーカーや、それらの生産工程で使用される保護フィルム、リリースフィルムなどの副資材を生産するコンバーター、さらにその原反を供給するフィルムメーカーに至るまで連鎖的に大きく販売量を落とす結果となった。
2023年に入るとセットメーカーの余剰在庫が整理され、生産調整がほぼ終了したことから、高機能フィルム市場は再びプラス成長に転じている。ただ、回復の速度は需要縮小の勢いに比べ弱く、V字回復が期待できるほどではない。
2021年実績を100とした場合の2024年の出荷数量予測は、PIフィルムが107.2%、MLCCリリースフィルムは97.2%、一般産業用PETフィルム94.6%、光学用ペットフィルム94.0%と、2021年の需要レベルに戻るのは2024年から2025年頃になる見通しである。
2.注目トピック~PETフィルム:2023年は韓国でV字回復の期待も、日本は緩やかな回復速度となる見通し~
2022年のPETフィルム市場は、セットメーカーや部材メーカーの在庫調整・生産調整の動きが夏頃から顕著となり、例年であれば需要期となる10月以降も戻らなかった。そのため、下半期以降、PETフィルムの多くの用途でオーダーが激減した。中には例年の出荷数量の50~60%程度にも満たないものも出てくるなど、比較的堅調であった上半期の実績を合わせても、2022年のPETフィルム市場規模(光学用+一般産業用、メーカー出荷数量ベース)は前年比79.5%の49万6,600tまで縮小した。
セットメーカーや部材メーカーによる在庫調整・生産調整の動きは特に韓国において顕著であったため、韓国のPETフィルムメーカーの販売量の下げ幅は日本勢、台湾勢に比べ大きかった。ただ、韓国では生産調整・在庫調整が急ピッチで進められた分、底を打つのも比較的早く、2022年末から2023年初め頃にはPETフィルム需要が回復に転じ、2023年3月~4月頃からはそのスピードも速まっているものと見られる。
一方、日本においてはセットメーカーや部材メーカーによる在庫調整・生産調整は2022年の比較的早い段階から少しずつ実施されはじめ、2023年3月頃まで緩やかに続いた。2021年レベルへの回復は2024年から2025年頃までかかる見通しである。
3.将来展望
日本のフィルムメーカーは、生き残りのための方策として、Film to Filmリサイクルに代表される「環境」にフォーカスした技術開発と提案を進めており、資源循環やカーボンニュートラル(CN)を新たな競争の枠組みとしていくことが考えられる。
環境対応は目新しい用途開発や新規需要の取り込みに直結するわけではないものの、あらゆる業界でCNやサーキュラーエコノミーが重要課題となっている現在、材料・部材・副資材のサプライヤーとしてユーザー企業の環境対応ニーズにどう応え、何を提案できるかは、フィルムメーカーの新たな競争軸となり得るだろう。
Film to Filmリサイクルは単に使用済製品を再溶融して樹脂に戻すだけでなく、厚み精度やフィルムの品質をユーザーの要求スペックに保ちながら製膜する必要があり、技術的難易度が高い。特に使用済フィルムを原料とするポストコンシューマーリサイクル(PCR)※では、回収されたフィルムの用途や施されていた加工によって異物が多いケースもある。偏光板用のプロテクトフィルム、リリースフィルムやMLCCの生産プロセスで使用されるリリースフィルムなど、高平滑・無異物・無欠陥といった高い品質管理が求められる製品をリサイクルするにはバージン材を使用する場合以上の製膜技術、品質管理技術が要求される。ここに日本のフィルムメーカーにとっての新たなビジネスチャンスがあると考える。
リサイクル製品の製造は、使用済製品の回収、洗浄・異物除去などにコストがかかるためもバージン製品よりもコストアップとなる。そのため、フィルムメーカーやコンバーターは、リサイクルコストとユーザーの許容価格とをすり合わせながらコストダウンに向けた技術開発を行っていく必要があるが、利益が確保できないほどのコストダウンは避けなければならない。
日本にしかないFilm to Filmリサイクルのスキームと技術、それを背景にしたフィルムの品質で「リサイクル品の相場(=新たな価値)を作りだす」意気込みでの展開が求められている。
※ポストコンシューマーリサイクル(PCR):消費者による使用後、回収された使用済みの製品を再資源化すること
※掲載されている情報は、発表日現在の情報です。その後予告なしに変更されることがございますので、あらかじめご了承ください。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3329
調査要綱
1.調査期間: 2023年4月~7月
2.調査対象: フィルムメーカー、コンバーター(日本、韓国、台湾)
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
4.発刊日: 2023年07月31日
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