株式会社リプロセル(以下「当社」)において実施しておりました、再生医療製品 Stemchymal(R)(同種脂肪由来間葉系幹細胞、以下「ステムカイマル」)を用いた脊髄小脳変性症を対象とした国内第II相臨床試験(治験実施計画書番号:RS-01、以下「本治験」)の結果について、2023年5月24日付で、以下のとおり、お知らせいたします。
本治験は、遺伝子検査により診断が確定したSCA3又はSCA6の脊髄小脳変性症患者を対象として、ステムカイマルの安全性及び有効性を評価するためにプラセボを対照とした多施設共同、ランダム化、二重盲検並行群間試験にて実施し、59名の患者が登録されました。また、台湾においても、類似の試験デザインにて第II相臨床試験を実施しております。
安全性
本治験に登録された全59例(ステムカイマル投与群(以下「STM群」)31例、プラセボ群(以下「PCB群」)28例)を安全性解析対象として評価し、因果関係が否定されなかった有害事象(副作用)の発現率は、STM群77.4%(24/31例)、PCB群35.7%(10/28例)でありましたが、いずれの有害事象も回復していることを確認しております。また、治験薬との関連が疑われる重篤な有害事象は、STM群、PCB群ともに認められませんでした。
なお、本治験では、外部安全性評価委員会を設置しており、当該委員会からも安全性に問題のないことが確認されました。
有効性
主要評価項目であるSARAスコアのベースライン(Visit2、投与前)から治験製品初回投与52週目(Visit8)までの変化量を共分散分析及びVisit8におけるSARAスコアの病態進行分析を実施した結果、STM群がPCB群に比べて統計学的に有意な改善は認められませんでした。
しかしながら、既報論文等の調査の結果、脊髄小脳変性症の過去の90%以上(22件/24件中)の臨床試験においてプラセボ効果が認められること、さらに、重症度の低い患者群ほどプラセボ効果が高くなる傾向があることが示唆されました1),2),3),4)。
このため、本治験においても、PCB群の解析を実施した結果、既報論文と同様に、ベースラインが低いPCB群ほど、Visit8のSARAスコアがより低下するプラセボ効果が認められることが確認されました。
一方、ベースラインのSARAスコアが11以上のベースの高い部分集団では、プラセボ効果が軽減され、自然歴(脊髄小脳変性症の自然歴は、SARAスコアは1年あたり約1ポイント(SCA3で1.14ポイント、SCA6で0.86ポイント)増加する)5)に近い傾向を示すことが確認されました。
以上の点を踏まえ、統計解析計画書及び医学専門家の助言に基づき、投与前のベースのSARAスコアを基準とした部分集団解析を実施したところ、主要評価項目であるSARAスコアの病態進行分析では、ベースライン11以上でP値0.042となり、PCB群と比べて統計的に有意な改善を認めました。つまり、プラセボ効果の影響が少なく、PCB群が自然歴に近いベースの高い部分集団では、ステムカイマルの効果が明らかになったものと考えられます。
また、STM群ではベースの低い部分集団の場合(ベースラインのSARAスコアが9以上や10以上)であっても、52週までのSARAスコア変化量はベースの高い部分集団と同程度の値を示しており、ベースの程度によらず一貫した効果があるものと推察されます。さらに、その効果は少なくとも1年程度の症状悪化の抑制効果があることも示唆されています。一方、PCB群では、ベースによりプラセボ効果が大きく変動し、ベースが低い群ほどプラセボ効果が高くなる傾向が認められました。
また、医学専門家の助言に基づき、副次評価項目であるCGI(臨床全般印象度)、PGI-I(改善に関する被験者の全般印象度)、及びSARAスコアの改善割合についても、ベースの高い部分集団において部分集団解析を実施した結果、SARAスコアと同様に、CGI、PGI-I、SARAスコアの改善割合いずれも、臨床症状の抑制効果が得られました。このように、主要評価項目であるSARAスコアの変化量と、臨床医からの視点(CGI)と被験者本人の視点(PGI-I)に、共通の傾向が認められたことは、ステムカイマルの病態進行抑制効果を裏付けるものとなっております。
台湾の第II相臨床試験の結果
台湾における第II相臨床試験においても、SARAスコアの病態進行分析の部分集団解析の結果、ベースの高い部分集団でSTM群がPCB群に比べて改善が認められており、日本の臨床試験と同様の傾向が確認されております。また、日本と同様、安全性においても、重篤な安全性の問題は見られていないことが確認されています。
以上のことより、ステムカイマルは脊髄小脳変性症に対して安全性には問題なく、プラセボ効果の影響が少ないと考えられるベースの高い部分集団で有効性が確認でき、脊髄小脳変性症に一定の有効性が期待できるものと考えます。
脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまうことにより、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。
日本では、2018年12月に希少疾病用再生医療等製品として指定されております。これにより、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができます。
今後とも当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、今後、承認申請の準備を進めてまいります。
当社代表取締役社長 横山周史のコメント
「今回の第II相臨床試験で、台湾のデータと同様、ステムカイマルの病態進行抑制効果が期待される結果が得られたこと、また、安全性が確認できたことを嬉しく思います。今後、患者様に少しでも早く新しい治療法が届けられるよう社員一同尽力してまいります。」
名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経病態制御学 神経内科 勝野雅央教授のコメント
「本治験において、ステムカイマルの脊髄小脳変性症患者への安全性が示された。部分集団解析では有効性に関わるデータも得られたため、今後さらに詳細な検討が必要と考えられる。」
なお、本件による2024年3月期連結業績予想への影響はありませんが、中長期的な業績向上に資するものと考えております。
<用語説明>
プラセボ対照: プラセボは、色や重さ、味など物理的な特性を可能な限り治験薬に似せ、かつ薬効成分を含まない「ダミー」です。臨床試験において、被験者を「実際に治験薬を投与するグループ」と「ダミーであるプラセボを投与するグループ」に分けて行う試験デザインのことで、治験薬の効果を適切に評価することが出来ます。
ランダム化比較試験:被験者をランダムにステムカイマル投与グループとプラセボグループに分けて投与することを言います。ランダム化することで、各グループの性質が均等になり、結果に及ぶ影響が少なくなるため、非ランダム化比較試験よりもエビデンスレベルが高いとされています。
二重盲検:どちらの薬(ステムカイマル、もしくはプラセボ)を投与しているか、被験者自身も担当医にも(二重)、わからない(盲検)ようにする試験法のことです。投与される薬の中身がわかった状態で治験が行われると、評価に主観やプラセボ効果が混ざり、客観性の失われた結果が出る可能性があります。二重盲検化は、試験結果に偏りが生じる危険性を最小化する手法であり、新薬の治療効果・有効性を確かめるための比較試験として最も一般的な方法として知られています。
並行群間比較試験:治療法を比較する場合にステムカイマル投与グループと比較するプラセボグループを同時並行で観察して比較することです。
SARAスコア:脊髄小脳変性症の症状の評価のために、広く用いられている指標です。評価方法は、歩行や立っているときの状態、会話の様子や指先の運動などを 治験担当医師が観察し、症状を評価します。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
CGI(臨床全般印象度):治療開始時からの被験者の変化を、7つの分類(1. 著明改善~7. 著明悪化)の中から、治療経験を有する治験担当医師が評価する指標です。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
PGI-I(改善に関する被験者の全般印象度):治療に対する状況の変化を分類するための総合的な指標であり、7つの分類(1. 非常に改善した~7. 非常に悪化した)の中から、被験者自身に該当する回答を選択いただくアンケートになります。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
<参考論文>
1) Choi JH, Shin C, Kim HJ, Jeon B. Placebo response in degenerative cerebellar ataxias: a descriptive review of randomized, placebo-controlled trials. J Neurol. 2022;269(1):62-71.
2) Nishizawa M, Onodera O, Hirakawa A, Shimizu Y, Yamada M; Rovatirelin Study Group. Effect of rovatirelin in patients with cerebellar ataxia: two randomised double-blind placebo-controlled phase 3 trials. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91(3):254-262.
3) Benussi A, Dell'Era V, Cotelli MS, et al. Long term clinical and neurophysiological effects of cerebellar transcranial direct current stimulation in patients with neurodegenerative ataxia. Brain Stimul. 2017;10(2):242-250.
4) Maas RPPWM, Teerenstra S, Toni I, Klockgether T, Schutter DJLG, van de Warrenburg BPC. Cerebellar Transcranial Direct Current Stimulation in Spinocerebellar Ataxia Type 3: a Randomized, Double-Blind, Sham-Controlled Trial. Neurotherapeutics. 2022;19(4):1259-1272.
5) Ashizawa T, Figueroa KP, Perlman SL, et al. Clinical characteristics of patients with spinocerebellar ataxias 1, 2, 3 and 6 in the US; a prospective observational study. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:177
本治験は、遺伝子検査により診断が確定したSCA3又はSCA6の脊髄小脳変性症患者を対象として、ステムカイマルの安全性及び有効性を評価するためにプラセボを対照とした多施設共同、ランダム化、二重盲検並行群間試験にて実施し、59名の患者が登録されました。また、台湾においても、類似の試験デザインにて第II相臨床試験を実施しております。
安全性
本治験に登録された全59例(ステムカイマル投与群(以下「STM群」)31例、プラセボ群(以下「PCB群」)28例)を安全性解析対象として評価し、因果関係が否定されなかった有害事象(副作用)の発現率は、STM群77.4%(24/31例)、PCB群35.7%(10/28例)でありましたが、いずれの有害事象も回復していることを確認しております。また、治験薬との関連が疑われる重篤な有害事象は、STM群、PCB群ともに認められませんでした。
なお、本治験では、外部安全性評価委員会を設置しており、当該委員会からも安全性に問題のないことが確認されました。
有効性
主要評価項目であるSARAスコアのベースライン(Visit2、投与前)から治験製品初回投与52週目(Visit8)までの変化量を共分散分析及びVisit8におけるSARAスコアの病態進行分析を実施した結果、STM群がPCB群に比べて統計学的に有意な改善は認められませんでした。
しかしながら、既報論文等の調査の結果、脊髄小脳変性症の過去の90%以上(22件/24件中)の臨床試験においてプラセボ効果が認められること、さらに、重症度の低い患者群ほどプラセボ効果が高くなる傾向があることが示唆されました1),2),3),4)。
このため、本治験においても、PCB群の解析を実施した結果、既報論文と同様に、ベースラインが低いPCB群ほど、Visit8のSARAスコアがより低下するプラセボ効果が認められることが確認されました。
一方、ベースラインのSARAスコアが11以上のベースの高い部分集団では、プラセボ効果が軽減され、自然歴(脊髄小脳変性症の自然歴は、SARAスコアは1年あたり約1ポイント(SCA3で1.14ポイント、SCA6で0.86ポイント)増加する)5)に近い傾向を示すことが確認されました。
以上の点を踏まえ、統計解析計画書及び医学専門家の助言に基づき、投与前のベースのSARAスコアを基準とした部分集団解析を実施したところ、主要評価項目であるSARAスコアの病態進行分析では、ベースライン11以上でP値0.042となり、PCB群と比べて統計的に有意な改善を認めました。つまり、プラセボ効果の影響が少なく、PCB群が自然歴に近いベースの高い部分集団では、ステムカイマルの効果が明らかになったものと考えられます。
また、STM群ではベースの低い部分集団の場合(ベースラインのSARAスコアが9以上や10以上)であっても、52週までのSARAスコア変化量はベースの高い部分集団と同程度の値を示しており、ベースの程度によらず一貫した効果があるものと推察されます。さらに、その効果は少なくとも1年程度の症状悪化の抑制効果があることも示唆されています。一方、PCB群では、ベースによりプラセボ効果が大きく変動し、ベースが低い群ほどプラセボ効果が高くなる傾向が認められました。
また、医学専門家の助言に基づき、副次評価項目であるCGI(臨床全般印象度)、PGI-I(改善に関する被験者の全般印象度)、及びSARAスコアの改善割合についても、ベースの高い部分集団において部分集団解析を実施した結果、SARAスコアと同様に、CGI、PGI-I、SARAスコアの改善割合いずれも、臨床症状の抑制効果が得られました。このように、主要評価項目であるSARAスコアの変化量と、臨床医からの視点(CGI)と被験者本人の視点(PGI-I)に、共通の傾向が認められたことは、ステムカイマルの病態進行抑制効果を裏付けるものとなっております。
台湾の第II相臨床試験の結果
台湾における第II相臨床試験においても、SARAスコアの病態進行分析の部分集団解析の結果、ベースの高い部分集団でSTM群がPCB群に比べて改善が認められており、日本の臨床試験と同様の傾向が確認されております。また、日本と同様、安全性においても、重篤な安全性の問題は見られていないことが確認されています。
以上のことより、ステムカイマルは脊髄小脳変性症に対して安全性には問題なく、プラセボ効果の影響が少ないと考えられるベースの高い部分集団で有効性が確認でき、脊髄小脳変性症に一定の有効性が期待できるものと考えます。
脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまうことにより、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。
日本では、2018年12月に希少疾病用再生医療等製品として指定されております。これにより、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができます。
今後とも当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、今後、承認申請の準備を進めてまいります。
当社代表取締役社長 横山周史のコメント
「今回の第II相臨床試験で、台湾のデータと同様、ステムカイマルの病態進行抑制効果が期待される結果が得られたこと、また、安全性が確認できたことを嬉しく思います。今後、患者様に少しでも早く新しい治療法が届けられるよう社員一同尽力してまいります。」
名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経病態制御学 神経内科 勝野雅央教授のコメント
「本治験において、ステムカイマルの脊髄小脳変性症患者への安全性が示された。部分集団解析では有効性に関わるデータも得られたため、今後さらに詳細な検討が必要と考えられる。」
なお、本件による2024年3月期連結業績予想への影響はありませんが、中長期的な業績向上に資するものと考えております。
<用語説明>
プラセボ対照: プラセボは、色や重さ、味など物理的な特性を可能な限り治験薬に似せ、かつ薬効成分を含まない「ダミー」です。臨床試験において、被験者を「実際に治験薬を投与するグループ」と「ダミーであるプラセボを投与するグループ」に分けて行う試験デザインのことで、治験薬の効果を適切に評価することが出来ます。
ランダム化比較試験:被験者をランダムにステムカイマル投与グループとプラセボグループに分けて投与することを言います。ランダム化することで、各グループの性質が均等になり、結果に及ぶ影響が少なくなるため、非ランダム化比較試験よりもエビデンスレベルが高いとされています。
二重盲検:どちらの薬(ステムカイマル、もしくはプラセボ)を投与しているか、被験者自身も担当医にも(二重)、わからない(盲検)ようにする試験法のことです。投与される薬の中身がわかった状態で治験が行われると、評価に主観やプラセボ効果が混ざり、客観性の失われた結果が出る可能性があります。二重盲検化は、試験結果に偏りが生じる危険性を最小化する手法であり、新薬の治療効果・有効性を確かめるための比較試験として最も一般的な方法として知られています。
並行群間比較試験:治療法を比較する場合にステムカイマル投与グループと比較するプラセボグループを同時並行で観察して比較することです。
SARAスコア:脊髄小脳変性症の症状の評価のために、広く用いられている指標です。評価方法は、歩行や立っているときの状態、会話の様子や指先の運動などを 治験担当医師が観察し、症状を評価します。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
CGI(臨床全般印象度):治療開始時からの被験者の変化を、7つの分類(1. 著明改善~7. 著明悪化)の中から、治療経験を有する治験担当医師が評価する指標です。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
PGI-I(改善に関する被験者の全般印象度):治療に対する状況の変化を分類するための総合的な指標であり、7つの分類(1. 非常に改善した~7. 非常に悪化した)の中から、被験者自身に該当する回答を選択いただくアンケートになります。症状が悪化するほど、スコアは増加します。
<参考論文>
1) Choi JH, Shin C, Kim HJ, Jeon B. Placebo response in degenerative cerebellar ataxias: a descriptive review of randomized, placebo-controlled trials. J Neurol. 2022;269(1):62-71.
2) Nishizawa M, Onodera O, Hirakawa A, Shimizu Y, Yamada M; Rovatirelin Study Group. Effect of rovatirelin in patients with cerebellar ataxia: two randomised double-blind placebo-controlled phase 3 trials. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91(3):254-262.
3) Benussi A, Dell'Era V, Cotelli MS, et al. Long term clinical and neurophysiological effects of cerebellar transcranial direct current stimulation in patients with neurodegenerative ataxia. Brain Stimul. 2017;10(2):242-250.
4) Maas RPPWM, Teerenstra S, Toni I, Klockgether T, Schutter DJLG, van de Warrenburg BPC. Cerebellar Transcranial Direct Current Stimulation in Spinocerebellar Ataxia Type 3: a Randomized, Double-Blind, Sham-Controlled Trial. Neurotherapeutics. 2022;19(4):1259-1272.
5) Ashizawa T, Figueroa KP, Perlman SL, et al. Clinical characteristics of patients with spinocerebellar ataxias 1, 2, 3 and 6 in the US; a prospective observational study. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:177