2018年米国農業法によるヘンプ由来CBD(カンナビジオール)の合法化に伴い、CBD誘導体となる半合成カンナビノイドが注目されています。日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京都品川区)では、CBDの変換とその向精神作用に関するレポートを本日、当学会サイトにて仮訳を公表した。
本レポートでは、CBDから変換できる下記の19の化合物と101の立体異性体を紹介しています。
CBN、CBD、△9-THC、△7-THC、△8-THC、△10-THC、△11-THC、11- hydroxy-CBD、5′-hydroxy-CBD、11,5′-hydroxy-CBD、11- hydroxy-THC、11,5′-dihydroxy-THC、8-hydroxy-iso-HHC、9α-hydroxy-HHC、9-methoxy-HHC、10-methoxy-HHC、9-ethoxy-HHC、10-ethoxy-HHC、iso-THC
目次
1. はじめに
2. 材料と方法
3. 結果および考察
3.1. カンナビノイドの向精神作用
3.2. CBDの変換
3.2.1. CBD、その分解生成物、その他のカンナビノイドの検出における分析上の課題
3.2.2. 酸性条件下での CBD の変換
3.2.3. In vitro 研究: 人工胃液及び他のモデル系における CBD の変換
3.2.4. In vivo 研究: 動物及びヒトにおけるCBDの変換
3.2.5. CBD 製品の保管中の CBD の転換
4. 結論
結論
CBDの薬理効果に関連する論文の数は増えており,CBD製品の販売者は,ほとんどの場合臨床的な証拠がないにもかかわらず,特定の健康強調表示で商品を宣伝することを奨励している[113]。 市場に出回るそのような製品の数が増えるとともに、これらの製品の効能に関連する消費者の安全性や消費者への欺瞞に関する懸念が広がっている。これらの疑問の1つは,in vitro(試験管内)及びin vivo(生体内)条件下におけるCBDの向精神性カンナビノイドへの潜在的変換であり,これは現在進行中の科学的議論の話題である。塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸などの強酸で処理すると、CBDが向精神薬であるΔ9-THCおよびΔ8-THCに変換されることは、多くの論文で疑いなく証明されている。これらの知見のいくつかは、例えば人工胃液を用いた培養など、in vitroの条件下でも起こることが証明されている。
CBDのin vivoでのΔ9-THCへの変換は、大部分の動物実験では支持されず、Δ9-THC及びその代謝物である11-ヒドロキシ-THCと11-COOH-THCAは血中及び脳組織で検出されなかったので、これらの結果のin vivo条件への移行が、現在進行中の論争の主要なポイントであると思われる。さらに,ヒトのいずれの研究においても,CBDの経口投与後にΔ9-THC及びその代謝物のいずれも検出されなかった。GC/MSやLC-MS/MSのような検出方法から生じる困難は、矛盾する結果のいくつかを説明するのに役立ち、進行中の議論に寄与しているかもしれない。しかしながら,発表されたデータのほとんどは,CBD製品の経口摂取により,CBDが薬理作用の閾値を超える量のΔ9-THCに変換される可能性は,ヒトの生体内ではあまり高くないという結論を支持している。
しかし,CBD製品の包括的なリスク評価には,Δ9-THC(又は他の向精神性カンナビノイド)のin vivoでの生成の監視だけでなく,製品自体で生じる摂取前の反応も必要である。CBDの向精神性代謝物への変換を支持する、この論文で決定された最も強力で最も臨床的に関連性のある証拠は、不適切な保管の間である。例えば、CBDは保管条件下でΔ9-THCに環化するかもしれないが、たとえ両方の化合物がさらにCBNに分解されたとしても、そのCBN自体が向精神作用を示す可能性がある。したがって、製造業者は、CBDの分解による向精神性化合物の形成を考慮して、完成品にCBDの長期安定性に特化した保存性試験を含めることが特に必要である。したがって、興味深い可能性として、食品中の脂質化合物を酸化から保護するために使用される酸化防止剤と同様に、CBDの分解を防止したり遅らせたりするのに役立つ化合物や条件について試験することも考えられる。
詳しい仮訳のレポートはこちら
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=124047
本レポートでは、CBDから変換できる下記の19の化合物と101の立体異性体を紹介しています。
CBN、CBD、△9-THC、△7-THC、△8-THC、△10-THC、△11-THC、11- hydroxy-CBD、5′-hydroxy-CBD、11,5′-hydroxy-CBD、11- hydroxy-THC、11,5′-dihydroxy-THC、8-hydroxy-iso-HHC、9α-hydroxy-HHC、9-methoxy-HHC、10-methoxy-HHC、9-ethoxy-HHC、10-ethoxy-HHC、iso-THC
目次
1. はじめに
2. 材料と方法
3. 結果および考察
3.1. カンナビノイドの向精神作用
3.2. CBDの変換
3.2.1. CBD、その分解生成物、その他のカンナビノイドの検出における分析上の課題
3.2.2. 酸性条件下での CBD の変換
3.2.3. In vitro 研究: 人工胃液及び他のモデル系における CBD の変換
3.2.4. In vivo 研究: 動物及びヒトにおけるCBDの変換
3.2.5. CBD 製品の保管中の CBD の転換
4. 結論
結論
CBDの薬理効果に関連する論文の数は増えており,CBD製品の販売者は,ほとんどの場合臨床的な証拠がないにもかかわらず,特定の健康強調表示で商品を宣伝することを奨励している[113]。 市場に出回るそのような製品の数が増えるとともに、これらの製品の効能に関連する消費者の安全性や消費者への欺瞞に関する懸念が広がっている。これらの疑問の1つは,in vitro(試験管内)及びin vivo(生体内)条件下におけるCBDの向精神性カンナビノイドへの潜在的変換であり,これは現在進行中の科学的議論の話題である。塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸などの強酸で処理すると、CBDが向精神薬であるΔ9-THCおよびΔ8-THCに変換されることは、多くの論文で疑いなく証明されている。これらの知見のいくつかは、例えば人工胃液を用いた培養など、in vitroの条件下でも起こることが証明されている。
CBDのin vivoでのΔ9-THCへの変換は、大部分の動物実験では支持されず、Δ9-THC及びその代謝物である11-ヒドロキシ-THCと11-COOH-THCAは血中及び脳組織で検出されなかったので、これらの結果のin vivo条件への移行が、現在進行中の論争の主要なポイントであると思われる。さらに,ヒトのいずれの研究においても,CBDの経口投与後にΔ9-THC及びその代謝物のいずれも検出されなかった。GC/MSやLC-MS/MSのような検出方法から生じる困難は、矛盾する結果のいくつかを説明するのに役立ち、進行中の議論に寄与しているかもしれない。しかしながら,発表されたデータのほとんどは,CBD製品の経口摂取により,CBDが薬理作用の閾値を超える量のΔ9-THCに変換される可能性は,ヒトの生体内ではあまり高くないという結論を支持している。
しかし,CBD製品の包括的なリスク評価には,Δ9-THC(又は他の向精神性カンナビノイド)のin vivoでの生成の監視だけでなく,製品自体で生じる摂取前の反応も必要である。CBDの向精神性代謝物への変換を支持する、この論文で決定された最も強力で最も臨床的に関連性のある証拠は、不適切な保管の間である。例えば、CBDは保管条件下でΔ9-THCに環化するかもしれないが、たとえ両方の化合物がさらにCBNに分解されたとしても、そのCBN自体が向精神作用を示す可能性がある。したがって、製造業者は、CBDの分解による向精神性化合物の形成を考慮して、完成品にCBDの長期安定性に特化した保存性試験を含めることが特に必要である。したがって、興味深い可能性として、食品中の脂質化合物を酸化から保護するために使用される酸化防止剤と同様に、CBDの分解を防止したり遅らせたりするのに役立つ化合物や条件について試験することも考えられる。
詳しい仮訳のレポートはこちら
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=124047
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。
<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9-テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
内因性カンナビノイド系:
内因性カンナビノイド系(ECS)は、内因性リガンド(アナンダミド、2-AG等)、それらのカンナビノイド受容体(CB1,CB2等)、および内因性カンナビノイドの形成と分解を触媒する酵素(FAAH、MAGL等)を含む脂質の複雑なネットワークである。ECSは、学習と記憶、感情処理、睡眠、体温制御、痛みの制御、炎症と免疫応答、食欲など、私たちの最も重要な身体機能の調節および制御を担っている。
2018年米国農業法による「ヘンプ」の定義:
「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta-9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。
<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9-テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
内因性カンナビノイド系:
内因性カンナビノイド系(ECS)は、内因性リガンド(アナンダミド、2-AG等)、それらのカンナビノイド受容体(CB1,CB2等)、および内因性カンナビノイドの形成と分解を触媒する酵素(FAAH、MAGL等)を含む脂質の複雑なネットワークである。ECSは、学習と記憶、感情処理、睡眠、体温制御、痛みの制御、炎症と免疫応答、食欲など、私たちの最も重要な身体機能の調節および制御を担っている。
2018年米国農業法による「ヘンプ」の定義:
「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(delta-9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。