2021年は、大麻草を麻薬原料植物として国際的な規制をしている麻薬単一条約が制定されて60周年、大麻草の成分であるTHCを規制している麻薬及び向精神薬条約が制定されて50周年です。
この機会に、国際薬物条約の監視機関である国際麻薬統制委員会(INCB)が60周年と50周年を記念した特別報告書を2021年3月に発行しました。
日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)では、この特別報告書の仮訳を5月26日付けで本学会WEBサイトにて公開しました。
特別報告書では、2つの条約が単なる薬物禁止を世界的に推進するだけの条約と思われていますが、人類の福祉と健康が中核であることを序文に明記しています。
「薬物統制システムは、公衆衛生と福祉の改善に向けたバランスのとれたシステムであり、比例性、集団的責任、国際人権基準の遵守という基本原則に基づいている。制度の実施とは、人類の健康と福祉を薬物政策の中核に据え、薬物政策の策定、人権基準の促進、予防、治療、リハビリテーション、薬物乱用の負の影響の軽減をより優先すること、共有する共通の責任に基づく国際協力の強化に包括的、統合的かつバランスのとれたアプローチを適用することを意味する。」
また、医療用大麻については、p29において、認められると明記されている。
「大麻草およびカンナビノイドの医療的使用は、国が非医療的用途への転用を防止するように設計された条約の要求事項を遵守している場合に限り、国際薬物条約に基づいて認められる。」
一方で、ウルグアイ、カナダ、アメリカ等の嗜好用大麻合法化の動きについては、p29において、強い批判をしています。
「非医療目的のための規制物質の合法化及び規制は、国際薬物の法的枠組みの明確な違反であり、合意された国際法秩序の尊重を損なうものであることは変わらない。」
薬物政策においては、2018年に国連31機関が、国連の1つの声として、「薬物政策に関する国連システムの 共通の立場」を発表しており、2019年に「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」が国連諸機関によって発行されています。人権については、特別報告書p30に次のように明記しています。
国際薬物条約の目標である人類の健康と福祉は、人権の完全な享受を含むと解釈することができる。薬物政策の名において人権を侵害する国の行為は、その目的のいかんを問わず、国際薬物条約とは根本的に矛盾する。
タイトル:1961年麻薬に関する単一条約60周年記念及び1971年向精神薬に関する条約
50周年記念特別報告書
目次
I.背景 p1
II.1961年麻薬単一条約・1971年向精神薬条約の遵守状況 p7
III.医療及び科学目的の国際統制物質のアクセスの確保 p9
IV.薬物乱用対策 p13
V.システムの機能 p15
A.統制範囲のスケジュールおよび変更 p15
B.推定及び評価 p16
C.生産・製造・在庫・消費統計 p17
D.取引 p19
VI.1961年麻薬単一条約及び1971年向精神薬条約の規定遵守を監視し、その実施を確保する上で統制委員会が果たす役割 p21
VII.罰則 p23
VIII.その他の規定 p25
IX.課題 p27
X.結論 p31
原文
Celebrating 60 Years of the Single Convention on Narcotic Drugs of 1961 and 50 Years of the
Convention on Psychotropic Substances of 1971 (E/INCB/2020/1/Supp.1) https://www.incb.org/documents/Publications/AnnualReports/AR2020/Supplement/00_AR2020_supp_full_document.pdf
特別報告書仮訳のPDFファイル(ダウンロード)はこちらへ
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=113458
この機会に、国際薬物条約の監視機関である国際麻薬統制委員会(INCB)が60周年と50周年を記念した特別報告書を2021年3月に発行しました。
日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)では、この特別報告書の仮訳を5月26日付けで本学会WEBサイトにて公開しました。
特別報告書では、2つの条約が単なる薬物禁止を世界的に推進するだけの条約と思われていますが、人類の福祉と健康が中核であることを序文に明記しています。
「薬物統制システムは、公衆衛生と福祉の改善に向けたバランスのとれたシステムであり、比例性、集団的責任、国際人権基準の遵守という基本原則に基づいている。制度の実施とは、人類の健康と福祉を薬物政策の中核に据え、薬物政策の策定、人権基準の促進、予防、治療、リハビリテーション、薬物乱用の負の影響の軽減をより優先すること、共有する共通の責任に基づく国際協力の強化に包括的、統合的かつバランスのとれたアプローチを適用することを意味する。」
また、医療用大麻については、p29において、認められると明記されている。
「大麻草およびカンナビノイドの医療的使用は、国が非医療的用途への転用を防止するように設計された条約の要求事項を遵守している場合に限り、国際薬物条約に基づいて認められる。」
一方で、ウルグアイ、カナダ、アメリカ等の嗜好用大麻合法化の動きについては、p29において、強い批判をしています。
「非医療目的のための規制物質の合法化及び規制は、国際薬物の法的枠組みの明確な違反であり、合意された国際法秩序の尊重を損なうものであることは変わらない。」
薬物政策においては、2018年に国連31機関が、国連の1つの声として、「薬物政策に関する国連システムの 共通の立場」を発表しており、2019年に「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」が国連諸機関によって発行されています。人権については、特別報告書p30に次のように明記しています。
国際薬物条約の目標である人類の健康と福祉は、人権の完全な享受を含むと解釈することができる。薬物政策の名において人権を侵害する国の行為は、その目的のいかんを問わず、国際薬物条約とは根本的に矛盾する。
タイトル:1961年麻薬に関する単一条約60周年記念及び1971年向精神薬に関する条約
50周年記念特別報告書
目次
I.背景 p1
II.1961年麻薬単一条約・1971年向精神薬条約の遵守状況 p7
III.医療及び科学目的の国際統制物質のアクセスの確保 p9
IV.薬物乱用対策 p13
V.システムの機能 p15
A.統制範囲のスケジュールおよび変更 p15
B.推定及び評価 p16
C.生産・製造・在庫・消費統計 p17
D.取引 p19
VI.1961年麻薬単一条約及び1971年向精神薬条約の規定遵守を監視し、その実施を確保する上で統制委員会が果たす役割 p21
VII.罰則 p23
VIII.その他の規定 p25
IX.課題 p27
X.結論 p31
原文
Celebrating 60 Years of the Single Convention on Narcotic Drugs of 1961 and 50 Years of the
Convention on Psychotropic Substances of 1971 (E/INCB/2020/1/Supp.1) https://www.incb.org/documents/Publications/AnnualReports/AR2020/Supplement/00_AR2020_supp_full_document.pdf
特別報告書仮訳のPDFファイル(ダウンロード)はこちらへ
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=113458
1961年麻薬単一条約及び1971年向精神薬条約の日本語訳はこちら
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mayaku/index.html
2018年11月 薬物政策に関する国連システムの共通の立場
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=89565
2019年3月 人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103026
2019年10月
刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=109437
2020年3月 薬物使用障害の治療に関する国際基準改訂版
実地試験の結果を取り入れる
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=106040
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mayaku/index.html
2018年11月 薬物政策に関する国連システムの共通の立場
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=89565
2019年3月 人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103026
2019年10月
刑事司法制度と連携した薬物使用障害者の治療及びケア-有罪判決又は刑罰の代替手段
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=109437
2020年3月 薬物使用障害の治療に関する国際基準改訂版
実地試験の結果を取り入れる
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=106040
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。