日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)は、2015年の国連人権高等弁務官報告書「世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究」の和訳を20年4月27日に学会サイトにて公表しました。
長年、国際的な薬物政策では、3つの国際条約を基盤とする薬物統制システムと、国連エイズ合同プログラムの現場の声としての人権擁護システムがお互いの目的のために矛盾した取組みをしていました。前者は懲罰的アプローチ、後者は公衆衛生アプローチと呼ばれています。
しかし、2001年以降、国連システム内の決議や政治宣言で、人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチに変化してきました。2016年の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書に大きく貢献したのが、国連人権理事会第30会期で報告された2015年の国連人権高等弁務官報告書「世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究」です。この報告書は、世界の薬物問題が人権の享受に与える影響について、特に被害者や弱者のニーズに配慮しつつ、人権の尊重と保護及び促進に関する勧告を行いました。
例えば、報告書では人権擁護の観点から次のような記述がみられます。
「…薬物使用と薬物依存の区別を強調した。薬物依存は、慢性的で緩和的な障害であり、生物心理社会的アプローチを用いて医学的に処置されるべきである。薬物使用は病状でもなく、必ずしも薬物依存につながるものでもない。…」(II.健康に生きる権利 A.治療へのアクセス p.3)
「健康に生きる権利の実現に向けた重要な一歩として、薬物の使用と所持の非犯罪化を求めてきた。」(II.健康に生きる権利 D.健康に生きる権利を達成するための障害p.6)
報告書の内容(目次)
I. はじめに
II. 健康に生きる権利
A. 治療へのアクセス
B. ハームリダクション(健康被害軽減)
C. 刑務所内での健康管理
D. 健康に対する権利を達成するための障害
E. 必須医薬品のアクセス
III. 刑事司法に関する権利
A. 恣意的な逮捕・勾留の禁止
B. 拷問その他の不当な取扱いの禁止
C. 生存権
D. 公正な裁判を受ける権利
E. 強制収容所における人権侵害
IV. 差別の禁止
A. 少数民族
B. 女性
V. 児童の権利
VI. 先住民族の権利
VII. 結論及び勧告
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
長年、国際的な薬物政策では、3つの国際条約を基盤とする薬物統制システムと、国連エイズ合同プログラムの現場の声としての人権擁護システムがお互いの目的のために矛盾した取組みをしていました。前者は懲罰的アプローチ、後者は公衆衛生アプローチと呼ばれています。
しかし、2001年以降、国連システム内の決議や政治宣言で、人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチに変化してきました。2016年の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書に大きく貢献したのが、国連人権理事会第30会期で報告された2015年の国連人権高等弁務官報告書「世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究」です。この報告書は、世界の薬物問題が人権の享受に与える影響について、特に被害者や弱者のニーズに配慮しつつ、人権の尊重と保護及び促進に関する勧告を行いました。
例えば、報告書では人権擁護の観点から次のような記述がみられます。
「…薬物使用と薬物依存の区別を強調した。薬物依存は、慢性的で緩和的な障害であり、生物心理社会的アプローチを用いて医学的に処置されるべきである。薬物使用は病状でもなく、必ずしも薬物依存につながるものでもない。…」(II.健康に生きる権利 A.治療へのアクセス p.3)
「健康に生きる権利の実現に向けた重要な一歩として、薬物の使用と所持の非犯罪化を求めてきた。」(II.健康に生きる権利 D.健康に生きる権利を達成するための障害p.6)
報告書の内容(目次)
I. はじめに
II. 健康に生きる権利
A. 治療へのアクセス
B. ハームリダクション(健康被害軽減)
C. 刑務所内での健康管理
D. 健康に対する権利を達成するための障害
E. 必須医薬品のアクセス
III. 刑事司法に関する権利
A. 恣意的な逮捕・勾留の禁止
B. 拷問その他の不当な取扱いの禁止
C. 生存権
D. 公正な裁判を受ける権利
E. 強制収容所における人権侵害
IV. 差別の禁止
A. 少数民族
B. 女性
V. 児童の権利
VI. 先住民族の権利
VII. 結論及び勧告
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
報告書の詳細は、下記ページからPDFファイルをダウンロードして下さい。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103024
国連システムにおける薬物問題と人権問題の年表(ご参考)
2001年 国連特別総会「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」
→薬物使用のハームリダクション(健康被害軽減)の確保について明記。
2008年 薬物と人権に関する国連麻薬委員会決議51/12
→国際薬物統制条約の実施における人権の促進と国連関連機関の協力について明記
2009年 第52会期麻薬委員会ウィーン政治宣言
→「関連支援サービス」の解釈を「ハームリダクション」を意味するとした。
2010年 達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受するすべての者の権利に関する特別報告者の報告書A/65/255
→ 薬物問題と人権・健康に焦点を当てた初めての包括的な報告書
2014年 国連総会決議69/201
→世界薬物問題は、国連憲章に完全に合致し、
すべての人権を完全に尊重して対処しなければならないことを再確認した。
2015年 国連加盟国「持続可能な開発目標(SDGs)」の最終文書に合意
世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究 国連人権高等弁務官報告書A/HRC/30/65
→健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年UNGASS2016へ提供された。
2016年 1998年以来の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書A/RES/S-30/1
→従来の需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。
2017年 12の国連機関による「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」
→ 薬物使用および薬物所持の非犯罪化、懲罰的法律の廃止を求めた。
2018年 国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策の ための共同コミットメントの実施への貢献」,
国連人権高等弁務官報告書A/HRC/39/39「世界の薬物問題に効果的に取組み、対処するための共同コミットメットの実施と人権について」、
国連薬物犯罪事務所(UNODC)・世界保健機関(WHO)「薬物使用防止に関する国際基準第2版」、
国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて「効果的な国連機関間の連携を通じ た国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持
→ この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。
2019年 国連システム調整タスクチーム「過去10年間に私たちが学んだこと:国連の薬物関連制度によって得られ、生み出された知見の要約」、
第62会期国連麻薬委員会「世界薬物問題に対処する共同コミットメントの実施加速化の ための国内的,地域的,国際的あらゆるレベルでの活動強化にかかる」閣僚宣言,
国連エイズ共同計画(UNAIDS)世界保健機関(WHO)国連開発計画(UNDP)らが「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表, 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が「薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイド」を発表,
国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が「刑事司法制度に接触する薬物使用障害者の治療とケア」を発表
→ 国連の各機関が新しい薬物政策における公衆衛生アプローチのための指針を発表
2020年 国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が
「薬物使用障害の治療に関する国際基準(2020年版)」を発行
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103024
国連システムにおける薬物問題と人権問題の年表(ご参考)
2001年 国連特別総会「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」
→薬物使用のハームリダクション(健康被害軽減)の確保について明記。
2008年 薬物と人権に関する国連麻薬委員会決議51/12
→国際薬物統制条約の実施における人権の促進と国連関連機関の協力について明記
2009年 第52会期麻薬委員会ウィーン政治宣言
→「関連支援サービス」の解釈を「ハームリダクション」を意味するとした。
2010年 達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受するすべての者の権利に関する特別報告者の報告書A/65/255
→ 薬物問題と人権・健康に焦点を当てた初めての包括的な報告書
2014年 国連総会決議69/201
→世界薬物問題は、国連憲章に完全に合致し、
すべての人権を完全に尊重して対処しなければならないことを再確認した。
2015年 国連加盟国「持続可能な開発目標(SDGs)」の最終文書に合意
世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究 国連人権高等弁務官報告書A/HRC/30/65
→健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年UNGASS2016へ提供された。
2016年 1998年以来の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書A/RES/S-30/1
→従来の需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。
2017年 12の国連機関による「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」
→ 薬物使用および薬物所持の非犯罪化、懲罰的法律の廃止を求めた。
2018年 国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策の ための共同コミットメントの実施への貢献」,
国連人権高等弁務官報告書A/HRC/39/39「世界の薬物問題に効果的に取組み、対処するための共同コミットメットの実施と人権について」、
国連薬物犯罪事務所(UNODC)・世界保健機関(WHO)「薬物使用防止に関する国際基準第2版」、
国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて「効果的な国連機関間の連携を通じ た国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持
→ この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。
2019年 国連システム調整タスクチーム「過去10年間に私たちが学んだこと:国連の薬物関連制度によって得られ、生み出された知見の要約」、
第62会期国連麻薬委員会「世界薬物問題に対処する共同コミットメントの実施加速化の ための国内的,地域的,国際的あらゆるレベルでの活動強化にかかる」閣僚宣言,
国連エイズ共同計画(UNAIDS)世界保健機関(WHO)国連開発計画(UNDP)らが「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表, 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が「薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイド」を発表,
国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が「刑事司法制度に接触する薬物使用障害者の治療とケア」を発表
→ 国連の各機関が新しい薬物政策における公衆衛生アプローチのための指針を発表
2020年 国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が
「薬物使用障害の治療に関する国際基準(2020年版)」を発行