「やっぱり自分は、マザコンだけんね!」
これまでの生活をリセットし、東京近郊の高原に移住した姜尚中は、以前とは違った眼差しで世界や同時代を眺めるようになった。慣れない土いじりや野菜づくりに精を出していると、悲喜こもごもの思い出が心に去来する。今は亡き、母、父、息子、無二の親友。すべての愛すべき人たちの記憶へと思いを馳せると、不思議と不安は消えていく――。
かつてなく率直な仕方で、大切な人たちへの切なる想いを書き綴った、人生の総決算の書。
これまでの生活をリセットし、東京近郊の高原に移住した姜尚中は、以前とは違った眼差しで世界や同時代を眺めるようになった。慣れない土いじりや野菜づくりに精を出していると、悲喜こもごもの思い出が心に去来する。今は亡き、母、父、息子、無二の親友。すべての愛すべき人たちの記憶へと思いを馳せると、不思議と不安は消えていく――。
かつてなく率直な仕方で、大切な人たちへの切なる想いを書き綴った、人生の総決算の書。
「おもしろなかこつも、おもしろかこつも、人生たい!」
60代の終わりを迎えた今でも、心の底に残る母のぬくもり。
あの懐かしい熊本弁で語りかけてくれた母の言葉。
思い出すたびに、不思議なことに、明日への不安は消えていく。
妻と二人、東京近郊から高原の山荘に住みかえて5年。
慣れない土いじりに、野菜づくり。鮮やかな花の色、飼い猫のやわらかな感触。
汗を流したあとの、美味しいおにぎり。こんな普通で穏やかな日々。
山の中での暮らしは、心の鎧を少しずつ外してくれた。
そして、私の人生の帳尻も合わせてくれている。
◆目次◆
まえがき
序 章 「山」に棲もう
第一章 空を見上げれば、いつでも
春の空/運命の夏/シラカバ越しのロシア/孤独のゴルフ、カラマツの落葉/冬の桜、オリオンの三つ星
第二章 人は、歩く食道である
父と庭いじり/タラの芽、義母が教えてくれた味/義母のこと/父の歯について/漱石はジューンベリー/土いじり/植える/枯れたトマト
第三章 花の色
永遠の幸福/小さな天使/黄色い花/朝鮮戦争とチンダルレ(ツツジ)/雪柳、小手鞠/金大中大統領/初夏のバラ、イギリスの酷寒の記憶/クレマチスのような国/ヤマシャクヤク/白ユリ/冬を朗らかに忍ぶ/末期の花
第四章 我々は猫である
ルーク登場/吾輩は謎である/相棒/吾輩の相棒、ふたたび
終 章 故郷について
静かな覚悟/「一生懸命、生きる場所が故郷たい」
あとがき
◆本文より一部抜粋◆
還暦を過ぎ、古希も近い歳になってから、私は、自分の心身の土台を母が形づくってくれたことを、深く体感するようになった。時にそれは、母が、私に憑依しているとしか思えないほどの生々しい感覚をともなっている。
私は今、母が身をもって示してくれた教えにならい、おのれに対しても、世間に対しても、絶妙な距離を置く場所で、白秋の終わりを過ごしている。
「人はね、裸で生まれて、裸で死んでいくと。お父さんもそうだったし、私もたい」
文字が読めなかった母が残してくれた言葉は、そして表情は、さらに言えば、彼女についてのすべての記憶は、万巻の書物以上に――ことによると、夏目漱石やマックス・ウェーバー以上に――今の私を支えている。
やがて来る冬への備えは、母にならえばいい。
(「はじめに」より)
◆著者プロフィール◆
姜尚中(かん さんじゅん)
1950年熊本県生まれ。政治学者。東京大学名誉教授。現在、熊本県立劇場理事長兼館長、鎮西学院学院長。著書は100万部を超える大ベストセラー『悩む力』とその続編『続・悩む力』のほか、『ナショナリズム』『日朝関係の克服』『在日』『姜尚中の政治学入門』『リーダーは半歩前を歩け』『あなたは誰? 私はここにいる』『心の力』『悪の力』『漱石のことば』『維新の影』など多数。小説作品には、いずれも30万部を超えるベストセラーとなった『母―オモニ―』『心』がある。
著者写真:撮影/丸谷嘉長
◆刊行記念 姜尚中トークイベント&サイン会を開催します◆
本書の刊行を記念して、10月17日(水):大阪、10月23日(火):東京、10月30日(火):熊本、10月31日(水):博多にて、著者のトークイベント&サイン会を開催いたします。
詳しくは以下URLにてご確認ください。
http://blog.shueisha.co.jp/event/index.php?ID=350