スリーシェルズは7/30開催の佐藤勝音楽祭について、コンサートの司会を担当する小林淳による曲目解説と、実行委員長の中野昭慶監督による『佐藤勝』を語る動画 その2を7月12日に公開した。
佐藤勝さんは、音のトリック、音の特撮の名手でした。もしかしたら音の特撮と言えるかもしれない。
と語る中野監督の言葉を予習してコンサートへ行こう!
佐藤勝音楽祭実行委員長の中野昭慶監督が『佐藤勝』について語る その2
https://youtu.be/c96CRWRIH-Q
(出演:中野昭慶、早川優、西耕一)
佐藤勝さんは、音のトリック、音の特撮の名手でした。もしかしたら音の特撮と言えるかもしれない。
と語る中野監督の言葉を予習してコンサートへ行こう!
佐藤勝音楽祭実行委員長の中野昭慶監督が『佐藤勝』について語る その2
https://youtu.be/c96CRWRIH-Q
(出演:中野昭慶、早川優、西耕一)
小林淳による楽曲解説
●「幸福の黄色いハンカチ メインテーマ」[『幸福の黄色いハンカチ』(1977/松竹)より]
佐藤勝は山田洋次と濃密な協働作業を行った。なかでも本作は評価がすこぶる高く、山田・佐藤コンビの代表作と目されている。網走刑務所を出所した男(勇作)が、ひょんなことから知り合った軽薄なカップルとともに妻の光枝がいる夕張へ向かう。出所時、勇作は光枝に手紙を出していた。「もしお前がまだ独りで暮らしているのならば、庭先の鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを掲げておいてくれ」──。ピート・ハミルが書いたコラムが原作にあたる。フォークソングでも唄われるその物語を山田洋次が舞台を北海道に置き換え、脚色(朝間義隆と共同)・監督した。クライマックスでは勇作と光枝の至上の愛を小細工なしに語り上げる。出演は、高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり、渥美清など。
高倉健が演じる勇作のテーマ、彼と倍賞千恵子扮する光枝の愛の主題でもあり、ふたりのドラマを彩った楽曲が情感豊かに演奏される。リリカルな旋律を弦楽器群が静かに、ときに明るくうたっていく。この楽曲が映画を包み上げる。そうしたイメージを醸し出した。勇作と光枝の愛の形が最高潮に達した時点で映画は終幕を迎えるが、佐藤は優しさに満ちた勇作の主題(勇作と光枝の愛のテーマ)を愛でるように奏で、映画を締めくくる。その直前、はたしてハンカチはあるのか、ないのか、という緊迫のクライマックスにおける佐藤の音楽演出もあり、本曲はより深い感動を引き連れて鑑賞者の耳に染み通ってきた。
●「黒澤明の三つの映画音楽より」[『隠し砦の三悪人』(1958/東宝)、『用心棒』(1961/黒澤プロダクション、東宝)、『赤ひげ』(1965/同)より]
『隠し砦の三悪人』のメインタイトル曲が奏でられる。戦国の世の時代。隣国の山名家と戦って敗れた秋月家の侍大将・真壁六郎太が御家再興のための軍資金を守って世継の雪姫と山中の隠し砦に立てこもる。六郎太と雪姫は百姓上がりの強欲な足軽ふたり組を手下に仕立て、敵の包囲網をくぐり抜けて隣国までの脱出を企む──。六郎太と雪姫たちはいかにして敵中を突破していくのか。映画はこの一点に集中していく。黒澤映画だからこそのダイナミズムが全編に横溢する。観る者を理屈抜きに楽しませる娯楽時代劇映画の最高峰の1本だ。出演は、三船敏郎、上原美佐、千秋実、藤原釜足、藤田進など。
佐藤の音楽も本作の娯楽要素を正面からあおり立てた。オープニングから受け手の感情をすこぶる高ぶらせる勇壮なマーチが現れる。アクション時代劇の開幕にふさわしい響きをまずは聴かせる。西部劇映画や史劇映画で流れてきても違和感は招かないと思える鳴りだ。この曲は三船敏郎が演じる真壁六郎太のテーマも兼ねるため、劇中は本曲の断片が要所に採り込まれた。フレーズ、音色が映画の栄養素にもなった。佐藤は本作で己の持ち味であるバイタリティに裏打ちされた音楽エネルギー、多彩な音色、きらびやかな旋律美を思いきり披露した。それが黒澤時代劇映画らしさを呼び込んだ。佐藤映画音楽の真骨頂を感じさせた。“佐藤節”を黒澤映画で初めて打ち出した。
『用心棒』は、時代劇映画中の屈指の名作としてあまりに知られている。上州の小さな宿場町にふらりとやってきた桑畑三十郎と名乗る浪人がこの町で縄張り争いに明け暮れているふたつのやくざ組織両方に要領よく入り込み、言葉巧みに双方を衝突させて血で血を洗う抗争を引き起こし、破滅に追い込んでいく。黒澤の奇抜なアイディア、三船敏郎が見せる殺陣のすさまじさが観客を大いに喜ばせた。日本映画界最大のスター、三船敏郎の魅力がほとばしった作品であり、黒澤はユーモアを漂わせた語り口とリアルな描写を並立させ、新しいタイプの時代劇映画を創造した。映画のおもしろさ、楽しさという要素が徹底的に追究された。出演は、三船敏郎、山田五十鈴、仲代達矢、司葉子、東野英治郎など。
本作は佐藤勝の代表作となった。地の底から湧くかのような音群が押し寄せ、馬目の宿の動機が顔を見せ、桑畑三十郎の主題曲になだれ込むメインタイトル曲が豪快に鳴り響く。この楽曲にも象徴されているが、通常の管弦楽法によるオーケストレーションがなされていない点が本作の特徴に指摘できる。ヴァイオリンが外され、打楽器が増強された。打楽器が執拗に現れ、木管楽器もめまぐるしく動く。正規のオーケストレーションを全部裏返しにした。ヴィオラとチェロの音域をひっくり返してみたり、トランペットをトロンボーンより低い音域で吹かせてみたり。ヴァイオリンを外して変則的な楽器編成を組んだ。『用心棒』のような映画は当たり前のシャープなオーケストレーションでは味が出ない。ブラックユーモアを強調するためにはこうした音がどうしても必要だった──。佐藤はこのように述べていた。構成・復元の青島佳祐、指揮の松井慶太、演奏のオーケストラ・トリプティークはこの佐藤の企てにいかに挑んでいくか。スリリングなひとときとなろう。
山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を映画化した『赤ひげ』は、黒澤映画の大きな特色であるヒューマニスティックな視線による人物描写が威風堂々とした風情で前面に現れ、黒澤芸術の集大成と呼ぶに相応する大作となった。幕府の御典医を志して長崎から江戸に還ってきた青年医師の保本登が心ならずも貧民施療院・小石川養生所に配属されてしまった。だが、そこの所長で“赤ひげ”と呼ばれる新出去定の貧困層へ注ぐ献身的な愛情、治療法、豪快このうえない人柄、そして貧しい人々の清冽な生き方に保本は打たれ、己も彼の道を歩もうと決心する。出演は、三船敏郎、加山雄三、土屋嘉男、二木てるみ、山崎努など。
佐藤は黒澤から言われた。ベートーヴェンの『交響曲第九番ニ短調』、ハイドンの交響曲第九十四番『驚愕』のような音楽を書いてほしい、それもフルトヴェンクラーが指揮しているような雰囲気を作ってほしい、と。佐藤は正面から受けて立った。黒澤映画を音楽から支えてきた矜持と彼の技量がそのハードルを乗り超えた。『第九』のイメージは、赤ひげの主題でもあるメインテーマに込められた。赤ひげの人生、生き方を賞賛する楽曲と解釈できるが、美しい心を宿した貧しき人々への賛歌とも取れる。不幸な生い立ちを背負ったおとよの主題は、黒澤の『驚愕』への回答だった。佐藤は同作第2楽章冒頭部に着想を得、ワルツ調の清楚で無垢な曲を書いた。おとよの閉ざされた心の氷解、保本への愛情の芽生えを楽想に乗せて表していく。シンプルがゆえに音楽の力が直線的に迫ってくる。本組曲は赤ひげのテーマ曲で大団円をうたい上げる。既成曲の提示による注文にも臆せず挑み、それを克服する。佐藤の音楽的素養・技量、音楽からの映像演出の的確さを示している。
●「岡本喜八の三つの映画音楽より
[「独立愚連隊2部作](1959、60/東宝)、『肉弾』(1968/「肉弾」をつくる会、ATG)、『吶喊』(1975/喜八プロダクション、ATG)より]
岡本喜八と佐藤勝は32本もの映画でコンビを組んだ。『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』よりの「独立愚連隊マーチ」が佐藤勝記念合唱団によって歌唱される。第二次大戦末期の北支戦線。各隊のはみ出し者ばかりを集めた、“独立愚連隊”と呼ばれる日本軍小哨隊を舞台とした、西部劇映画に通じるかのごとき戦争アクション映画だ。岡本の演出は陽気で娯楽性に富み、観る者をアナーキーな映画空間にもひたらせる。岡本の名は本作で一気に表舞台に躍り出た。興行は大成功を収め、翌年に『独立愚連隊西へ』が作られた。戦後、引きずってきた戦中派の心情のもとにテンポ感のある活劇ドラマを作りたい。岡本の熱き想いがほとばしる。出演は、佐藤允、三船敏郎、中丸忠雄、雪村いづみ、鶴田浩二など。
佐藤はメインテーマをつとめるタイトル音楽とふたつの歌曲(「独立愚連隊マーチ」「イキな大尉」)を前面に設置し、本2部作を彩った。“佐藤節”を横溢させるタイトル曲は佐藤映画音楽の名曲のひとつにあげられ、野太い男声合唱で唄われる歌曲、とりわけ「ゼンターイ、止まれ!」の掛け声とともに始まる「独立愚連隊マーチ」はあまたある佐藤歌曲中でも屈指の人気曲となった。戦時歌謡とは一線を画する、開放的でモダンな謡いが受け手の心を躍らせる。佐藤は岡本映画では音から映画に活力と動力を与えることを主目的とした音楽演出を行った傾向が認めされるが、「独立愚連隊マーチ」はその好例にあげられる。
続いて、『肉弾』よりメインテーマが奏でられる。この映画は岡本喜八が全精力を注いで送り出した自主製作作品であり、彼の作品群のなかでもトップクラス級の傑作という評価が定まっている。1945年の暑い夏、あいつと少女の物語。ATGと映画作家が500万円ずつを出資して製作する“1000万円映画”で、岡本とみね子夫人(本作に出演もしている)は製作資金捻出に奔走した。岡本の人生観並びに戦争観、戦中派である己への問いかけ、岡本の映画志向、作家性が映画全編からにじみ出る。岡本の心情を最も真摯に、最も正直に表した作品だ。出演は、寺田農、大谷直子、天本英世、三橋規子、笠智衆など。
岡本は佐藤にこう要望したという。憶えやすく、映画を観終わったあとでも口ずさめるメロディを。なかでもメインテーマには特にこだわった。ラフスケッチをピアノで聴かせてほしい、と岡本は佐藤に告げた。これはきわめて珍しいことだった。佐藤は真っ向から応じた。こうして受け手がすんなりと受け止められる簡素で無垢な旋律、耳になじみやすく、清玄なムードを発する楽曲が誕生した。低予算映画ゆえに小編成のこぢんまりとした室内楽的な鳴りが耳に付着するが、音色の美しさと存在感は特筆に値する。旋律、音色の主張で映画をより大衆的に、一般大衆に受け容れやすいものに仕立てようとする思惑が伝わってくる。佐藤は本作で第23回毎日映画コンクール(1968年度)音楽賞を受賞した。
『吶喊』よりのメインテーマが終曲を飾る。『肉弾』と同じくATGの協力を得て製作された“喜八イズム”“喜八タッチ”に貫かれた1本だ。“吶喊”とは、突撃のときにあげるトキの声を意味する。戊辰戦争の時代を生きる若者たちのドラマがリアルに描かれる。若者の青春はいつも戦争に翻弄されてきた。戦争の犠牲となってきた。そうした若者たちを見つめる、戦中派を自認する岡本の視線は鋭く、そして優しい。喜八ファンには堪えられない1本で、岡本の映画テクニックが端々から拾い上げられる。出演は、伊藤敏孝、岡田裕介、高橋悦史、伊佐山ひろ子、千波恵美子など。
佐藤勝はこの映画が持つユーモア感をときに強調し、天空からの視線も喚起させる音楽采配を進めた。官軍の流行歌を編曲して劇中で使い込むなど、やや滑稽的な音楽演出も確認できる。メインテーマの響きは、映画の終盤、カラス組が奮戦するも二本松城が無情にも落城していくシークエンスにかぶさり、本作の見せどころを作った。映画はかなりアナーキーといえ、癖のある仕上がりだが、佐藤が本作に付した調べは耳に付着しやすく、音楽を聴く楽しさを実感させる。本組曲を締めくくるにまさにふさわしい楽曲だろう。
●「ゴジラの逆襲 メインタイトル」[『ゴジラの逆襲』(1955/東宝)より]
1954年作『ゴジラ』の続篇にあたる。前作の東京に対し、本作の主舞台は大阪、後半では北海道に移る。凶悪性を滲ませるゴジラと新怪獣アンギラスが見せる生々しい死闘が最大の見どころとなる。日本製怪獣映画の特徴である怪獣同士の闘争は本作が嚆矢となった。終盤は、ゴジラを人間たちがいかに葬るか、に突き進む。神子島で防衛隊航空編隊が雪崩を発生させてゴジラをなかに封じ込める作戦を展開するクライマックスは、スペクタクル性に満ちる。小田基義は庶民的な映画に作家性を発揮する監督だった。海洋漁業パイロットの主人公をめぐる人間ドラマに小田の息遣いが感じ取れる。怪獣描写を売りとする映画にアクセントをつけた。興行は大成功を収め、日本映画界は新たな作品ジャンル“特撮怪獣映画”をここに得た。出演は、小泉博、若山セツ子、千秋実、志村喬、木匠マユリなど。
初めてのメジャー作品ゆえに佐藤は大いに燃えた。映画音楽の入学試験。そう位置づけて作曲に向かった。彼は実験精神豊かな音楽空間で要所を飾った。磁気テープの特性を活かし、テープの回転数を操作し、銅鑼やシンバル、ハープなどの音を逆回転、スロー再生させて加工し、と。無機質的なサウンドを積極的に付した。何か新しいもの、自分でしかできないことを試したい。そうした彼の意気込みはメインタイトル、雲海を背景にクレジットが打たれる箇所に乗る本曲からもすくい取れる。勇壮かつ躍動感にあふれ、観る者の感情を心地よく刺激する鳴りは、大空を翔ける男たちの心意気もうたうかのようだ。『ゴジラ』の続篇を手がけた彼の喜びも伝わってくる。試写後、東宝社内で佐藤の音楽が話題に上った。佐藤は映画音楽の入学試験に合格したのだ。彼にとって真の映画音楽デビュー作品が本作だった。このメインタイトル曲は映画音楽作曲家・佐藤勝の雄叫びでもあった。
●「ゴジラの息子組曲」[『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967/東宝)より]
怪獣映画ブーム只中に登場した本作は、子供たちの興味を駆り立てるためにゴジラの息子“ミニラ”誕生を前面に押し出した。南海の孤島でゴジラとミニラ親子が新怪獣カマキラス、クモンガと闘いを繰り広げる。ターゲットは当然児童だが、SF志向が強く、空想科学映画の旨味が効いている。とはいえ、観客の関心はミニラに集中する。監督の福田純、脚本の関沢新一と斯波一絵は、子供たちの受けをあからさまには狙わず、ミニラを肩肘張ることなく描き上げた。福田の演出も堅実で、特に映画後半からの熱を帯びた劇展開は観る者を釘づけにする。灼熱の太陽に覆われる熱帯描写から始まり、極寒のなか、豪雪が降り注ぐ映像で終幕を迎える映画構成も劇空間の広さを味わわせる。舞台の転換が映画的カタルシスを生んだ。出演は、高島忠夫、前田美波里、久保明、平田昭彦、佐原健二など。
佐藤勝の登板は、名コンビを築いていた福田純からの指名による。本作には佐藤映画音楽を形成する種々の響きが内包されている。彼は多くのテーマ曲を映画に与えた。ゴジラ、ミニラ、カマキラス、クモンガ、ヒロインのサエコ、シャーベット計画実験隊、冷凍ゾンデ、合成放射能ゾンデなど。音の色艶を重視し、聴覚から個性を訴えかける楽曲で対象を表現する。各主題曲を軸とした音楽構成が映画を華やかに彩る。重量感を漂わせるゴジラ、コミカルで無垢なミニラ、その対比も鮮やかだ。カマキラスのテーマはアヴァンギャルドで実験色豊かな鳴りを聴かせる。佐藤の懐の深さに想いを至らせる名曲といえる。一方、サエコを奏でる情緒に満ちてきらびやかな楽曲が人間味を醸し出す。音色、旋律、律動を操る佐藤の奥義がさりげなく伝わってくる。映画後半は佐藤の音楽演出が一段と冴えを見せる。色彩感を強調した複数の音楽成分が入り乱れ、劇展開に正面から応じる。佐藤の真骨頂とみなされる。彼の音楽は実に豊かだ。佐藤は常に口にしていた。映画音楽で大切なのは何より音色だ、と。こうした映画音楽理念が本作からは容易につかみ取れる。
●「ゴジラ対メカゴジラ組曲」[『ゴジラ対メカゴジラ』(1974/東宝映像)より]
「ゴジラ生誕20周年記念映画」。異星人に操られたゴジラ型サイボーグのメカゴジラに人類の守護神・ゴジラが立ちはだかる。福島正実の“原作”を関沢新一が脚色し、福田純が演出した。異星人による地球征服計画、その手先であるメカゴジラとゴジラを中心とする怪獣対決が見せどころを作るが、当時、高度成長の波が押し寄せていた沖縄の現況もさりげなく描かれる。本土と沖縄の微妙な空気感が絶妙な香辛料をつとめた。『日本沈没』(1973)で東宝の第3代特技監督に就任した中野昭慶のゴジラ映画における特技監督デビュー作でもある。メカゴジラは中野のデザインによるもの。ゴジラのブリキ玩具の表面を叩いてをつけ、メカニカルでシャープなゴジラのイメージを徐々に膨らませていったという。出演は、大門正明、青山一也、田島令子、平田昭彦、岸田森など。
佐藤はスウィング・ジャズを基調とする、音色と旋律を立てた音楽空間を導いた。打楽器と金管楽器が小気味よく鳴りわたる東宝マークから佐藤は自己の音楽特性をあふれさせる。音楽構成は怪獣の主題を中心に進む。メカゴジラの主題曲は圧巻といえ、ゴジラ、キングシーサー、メカゴジラが入り乱れるクライマックスの鳴りは鮮烈きわまりない。パワフルかつリズミカル、スウィング感を打ち出すアグレッシブなサウンドが受け手の感情を刺激した。重低音金管楽器を核とした、重量感に満ちたゴジラの主題の響きは、佐藤版「ゴジラのテーマ
の最終形となった。ではあるが、音楽世界の根幹をなすものは怪獣主題ばかりではない。沖縄の景観映像に流れるメインタイトル曲、琉球音階を用いた、民謡色を強く漂わせる楽曲が耳に焼きつく。ここから発展したきらびやかな音色による旋律、キングシーサーの動機が要所にちりばめられたことで、本作は常に沖縄の風土、空気感をまとうことになった。佐藤は場面内容に添った表現音楽、状況に応じた音楽を的確に配置する作曲家だった。その特性を本作における彼の音楽采配は強く訴えてくる。
------コンサートについて------
佐藤勝は、黒澤明映画をはじめ、岡本喜八映画、ゴジラシリーズ、山田洋次の黄色いハンカチなど、日本映画黄金期の傑作映画を音楽で演出しました。しかし、これだけ有名な作品ばかりなのに、コンサートで上演されたことがほとんどなく、譜面も散逸しているのです。
今回、御遺族や、映画会社などに残された譜面や資料を解読して、オリジナル音源と比較・検証。美術品の修復にも通じる復元作業を経て、日本映画の文化遺産が生演奏で甦ります。7/30は日本映画史にとっても重要な1日となるでしょう!
詳細はこちら
https://www.3s-cd.net/concert/jpn/ms/
佐藤勝のダイナミックで痛快なサウンドがよみがえる!
https://www.youtube.com/watch?v=e1DCukAucVM&feature=youtu.be
コンサート詳細
佐藤勝音楽祭
2017年7月30日(日)開演14:00(開場13:30)
渋谷区総合文化センター大和田4階さくらホール 演奏予定曲目
山田洋次監督映画より
幸福の黄色いハンカチ(1977)
岡本喜八監督映画より
独立愚連隊(1959)、肉弾(1968)、吶喊(1975)
黒澤明監督映画より
隠し砦の三悪人(1958)、用心棒(1961)、赤ひげ(1965)
ゴジラシリーズより
ゴジラの逆襲(1955)、ゴジラの息子(1967)、ゴジラ対メカゴジラ(1974)
指揮:松井慶太
オーケストラ・トリプティーク
男声合唱:佐藤勝記念合唱団
構成・復元:青島佳祐
司会:小林淳
SS席(前売):7,500円
S席(前売):6,500円
A席(前売):5,000円
B席(前売):4,000円(税込)
https://www.3s-cd.net/concert/jpn/ms/
カンフェティチケットセンター(質問窓口:03-6228-1630、チケット購入:0120-240-540)
協力: 佐藤家、喜八プロ、東宝ミュージック
佐藤勝音楽祭実行委員会: 中野昭慶(実行委員長)、小林淳、八朝裕樹、西耕一、鈴木正幸、内原康雄、山口翔悟、須賀正樹、早川優
制作:スリーシェルズ、ジャパニーズ・コンポーザー・アーカイヴズ
協賛:NCネットワーク、日本電子
プレトーク
中みね子(映画監督・岡本喜八夫人)
佐々木淳(編集者/東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
■本編トークゲスト
樋口真嗣(映画監督)
樋口尚文(映画監督)
■小林淳(司会)
●「幸福の黄色いハンカチ メインテーマ」[『幸福の黄色いハンカチ』(1977/松竹)より]
佐藤勝は山田洋次と濃密な協働作業を行った。なかでも本作は評価がすこぶる高く、山田・佐藤コンビの代表作と目されている。網走刑務所を出所した男(勇作)が、ひょんなことから知り合った軽薄なカップルとともに妻の光枝がいる夕張へ向かう。出所時、勇作は光枝に手紙を出していた。「もしお前がまだ独りで暮らしているのならば、庭先の鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを掲げておいてくれ」──。ピート・ハミルが書いたコラムが原作にあたる。フォークソングでも唄われるその物語を山田洋次が舞台を北海道に置き換え、脚色(朝間義隆と共同)・監督した。クライマックスでは勇作と光枝の至上の愛を小細工なしに語り上げる。出演は、高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり、渥美清など。
高倉健が演じる勇作のテーマ、彼と倍賞千恵子扮する光枝の愛の主題でもあり、ふたりのドラマを彩った楽曲が情感豊かに演奏される。リリカルな旋律を弦楽器群が静かに、ときに明るくうたっていく。この楽曲が映画を包み上げる。そうしたイメージを醸し出した。勇作と光枝の愛の形が最高潮に達した時点で映画は終幕を迎えるが、佐藤は優しさに満ちた勇作の主題(勇作と光枝の愛のテーマ)を愛でるように奏で、映画を締めくくる。その直前、はたしてハンカチはあるのか、ないのか、という緊迫のクライマックスにおける佐藤の音楽演出もあり、本曲はより深い感動を引き連れて鑑賞者の耳に染み通ってきた。
●「黒澤明の三つの映画音楽より」[『隠し砦の三悪人』(1958/東宝)、『用心棒』(1961/黒澤プロダクション、東宝)、『赤ひげ』(1965/同)より]
『隠し砦の三悪人』のメインタイトル曲が奏でられる。戦国の世の時代。隣国の山名家と戦って敗れた秋月家の侍大将・真壁六郎太が御家再興のための軍資金を守って世継の雪姫と山中の隠し砦に立てこもる。六郎太と雪姫は百姓上がりの強欲な足軽ふたり組を手下に仕立て、敵の包囲網をくぐり抜けて隣国までの脱出を企む──。六郎太と雪姫たちはいかにして敵中を突破していくのか。映画はこの一点に集中していく。黒澤映画だからこそのダイナミズムが全編に横溢する。観る者を理屈抜きに楽しませる娯楽時代劇映画の最高峰の1本だ。出演は、三船敏郎、上原美佐、千秋実、藤原釜足、藤田進など。
佐藤の音楽も本作の娯楽要素を正面からあおり立てた。オープニングから受け手の感情をすこぶる高ぶらせる勇壮なマーチが現れる。アクション時代劇の開幕にふさわしい響きをまずは聴かせる。西部劇映画や史劇映画で流れてきても違和感は招かないと思える鳴りだ。この曲は三船敏郎が演じる真壁六郎太のテーマも兼ねるため、劇中は本曲の断片が要所に採り込まれた。フレーズ、音色が映画の栄養素にもなった。佐藤は本作で己の持ち味であるバイタリティに裏打ちされた音楽エネルギー、多彩な音色、きらびやかな旋律美を思いきり披露した。それが黒澤時代劇映画らしさを呼び込んだ。佐藤映画音楽の真骨頂を感じさせた。“佐藤節”を黒澤映画で初めて打ち出した。
『用心棒』は、時代劇映画中の屈指の名作としてあまりに知られている。上州の小さな宿場町にふらりとやってきた桑畑三十郎と名乗る浪人がこの町で縄張り争いに明け暮れているふたつのやくざ組織両方に要領よく入り込み、言葉巧みに双方を衝突させて血で血を洗う抗争を引き起こし、破滅に追い込んでいく。黒澤の奇抜なアイディア、三船敏郎が見せる殺陣のすさまじさが観客を大いに喜ばせた。日本映画界最大のスター、三船敏郎の魅力がほとばしった作品であり、黒澤はユーモアを漂わせた語り口とリアルな描写を並立させ、新しいタイプの時代劇映画を創造した。映画のおもしろさ、楽しさという要素が徹底的に追究された。出演は、三船敏郎、山田五十鈴、仲代達矢、司葉子、東野英治郎など。
本作は佐藤勝の代表作となった。地の底から湧くかのような音群が押し寄せ、馬目の宿の動機が顔を見せ、桑畑三十郎の主題曲になだれ込むメインタイトル曲が豪快に鳴り響く。この楽曲にも象徴されているが、通常の管弦楽法によるオーケストレーションがなされていない点が本作の特徴に指摘できる。ヴァイオリンが外され、打楽器が増強された。打楽器が執拗に現れ、木管楽器もめまぐるしく動く。正規のオーケストレーションを全部裏返しにした。ヴィオラとチェロの音域をひっくり返してみたり、トランペットをトロンボーンより低い音域で吹かせてみたり。ヴァイオリンを外して変則的な楽器編成を組んだ。『用心棒』のような映画は当たり前のシャープなオーケストレーションでは味が出ない。ブラックユーモアを強調するためにはこうした音がどうしても必要だった──。佐藤はこのように述べていた。構成・復元の青島佳祐、指揮の松井慶太、演奏のオーケストラ・トリプティークはこの佐藤の企てにいかに挑んでいくか。スリリングなひとときとなろう。
山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を映画化した『赤ひげ』は、黒澤映画の大きな特色であるヒューマニスティックな視線による人物描写が威風堂々とした風情で前面に現れ、黒澤芸術の集大成と呼ぶに相応する大作となった。幕府の御典医を志して長崎から江戸に還ってきた青年医師の保本登が心ならずも貧民施療院・小石川養生所に配属されてしまった。だが、そこの所長で“赤ひげ”と呼ばれる新出去定の貧困層へ注ぐ献身的な愛情、治療法、豪快このうえない人柄、そして貧しい人々の清冽な生き方に保本は打たれ、己も彼の道を歩もうと決心する。出演は、三船敏郎、加山雄三、土屋嘉男、二木てるみ、山崎努など。
佐藤は黒澤から言われた。ベートーヴェンの『交響曲第九番ニ短調』、ハイドンの交響曲第九十四番『驚愕』のような音楽を書いてほしい、それもフルトヴェンクラーが指揮しているような雰囲気を作ってほしい、と。佐藤は正面から受けて立った。黒澤映画を音楽から支えてきた矜持と彼の技量がそのハードルを乗り超えた。『第九』のイメージは、赤ひげの主題でもあるメインテーマに込められた。赤ひげの人生、生き方を賞賛する楽曲と解釈できるが、美しい心を宿した貧しき人々への賛歌とも取れる。不幸な生い立ちを背負ったおとよの主題は、黒澤の『驚愕』への回答だった。佐藤は同作第2楽章冒頭部に着想を得、ワルツ調の清楚で無垢な曲を書いた。おとよの閉ざされた心の氷解、保本への愛情の芽生えを楽想に乗せて表していく。シンプルがゆえに音楽の力が直線的に迫ってくる。本組曲は赤ひげのテーマ曲で大団円をうたい上げる。既成曲の提示による注文にも臆せず挑み、それを克服する。佐藤の音楽的素養・技量、音楽からの映像演出の的確さを示している。
●「岡本喜八の三つの映画音楽より
[「独立愚連隊2部作](1959、60/東宝)、『肉弾』(1968/「肉弾」をつくる会、ATG)、『吶喊』(1975/喜八プロダクション、ATG)より]
岡本喜八と佐藤勝は32本もの映画でコンビを組んだ。『独立愚連隊』『独立愚連隊西へ』よりの「独立愚連隊マーチ」が佐藤勝記念合唱団によって歌唱される。第二次大戦末期の北支戦線。各隊のはみ出し者ばかりを集めた、“独立愚連隊”と呼ばれる日本軍小哨隊を舞台とした、西部劇映画に通じるかのごとき戦争アクション映画だ。岡本の演出は陽気で娯楽性に富み、観る者をアナーキーな映画空間にもひたらせる。岡本の名は本作で一気に表舞台に躍り出た。興行は大成功を収め、翌年に『独立愚連隊西へ』が作られた。戦後、引きずってきた戦中派の心情のもとにテンポ感のある活劇ドラマを作りたい。岡本の熱き想いがほとばしる。出演は、佐藤允、三船敏郎、中丸忠雄、雪村いづみ、鶴田浩二など。
佐藤はメインテーマをつとめるタイトル音楽とふたつの歌曲(「独立愚連隊マーチ」「イキな大尉」)を前面に設置し、本2部作を彩った。“佐藤節”を横溢させるタイトル曲は佐藤映画音楽の名曲のひとつにあげられ、野太い男声合唱で唄われる歌曲、とりわけ「ゼンターイ、止まれ!」の掛け声とともに始まる「独立愚連隊マーチ」はあまたある佐藤歌曲中でも屈指の人気曲となった。戦時歌謡とは一線を画する、開放的でモダンな謡いが受け手の心を躍らせる。佐藤は岡本映画では音から映画に活力と動力を与えることを主目的とした音楽演出を行った傾向が認めされるが、「独立愚連隊マーチ」はその好例にあげられる。
続いて、『肉弾』よりメインテーマが奏でられる。この映画は岡本喜八が全精力を注いで送り出した自主製作作品であり、彼の作品群のなかでもトップクラス級の傑作という評価が定まっている。1945年の暑い夏、あいつと少女の物語。ATGと映画作家が500万円ずつを出資して製作する“1000万円映画”で、岡本とみね子夫人(本作に出演もしている)は製作資金捻出に奔走した。岡本の人生観並びに戦争観、戦中派である己への問いかけ、岡本の映画志向、作家性が映画全編からにじみ出る。岡本の心情を最も真摯に、最も正直に表した作品だ。出演は、寺田農、大谷直子、天本英世、三橋規子、笠智衆など。
岡本は佐藤にこう要望したという。憶えやすく、映画を観終わったあとでも口ずさめるメロディを。なかでもメインテーマには特にこだわった。ラフスケッチをピアノで聴かせてほしい、と岡本は佐藤に告げた。これはきわめて珍しいことだった。佐藤は真っ向から応じた。こうして受け手がすんなりと受け止められる簡素で無垢な旋律、耳になじみやすく、清玄なムードを発する楽曲が誕生した。低予算映画ゆえに小編成のこぢんまりとした室内楽的な鳴りが耳に付着するが、音色の美しさと存在感は特筆に値する。旋律、音色の主張で映画をより大衆的に、一般大衆に受け容れやすいものに仕立てようとする思惑が伝わってくる。佐藤は本作で第23回毎日映画コンクール(1968年度)音楽賞を受賞した。
『吶喊』よりのメインテーマが終曲を飾る。『肉弾』と同じくATGの協力を得て製作された“喜八イズム”“喜八タッチ”に貫かれた1本だ。“吶喊”とは、突撃のときにあげるトキの声を意味する。戊辰戦争の時代を生きる若者たちのドラマがリアルに描かれる。若者の青春はいつも戦争に翻弄されてきた。戦争の犠牲となってきた。そうした若者たちを見つめる、戦中派を自認する岡本の視線は鋭く、そして優しい。喜八ファンには堪えられない1本で、岡本の映画テクニックが端々から拾い上げられる。出演は、伊藤敏孝、岡田裕介、高橋悦史、伊佐山ひろ子、千波恵美子など。
佐藤勝はこの映画が持つユーモア感をときに強調し、天空からの視線も喚起させる音楽采配を進めた。官軍の流行歌を編曲して劇中で使い込むなど、やや滑稽的な音楽演出も確認できる。メインテーマの響きは、映画の終盤、カラス組が奮戦するも二本松城が無情にも落城していくシークエンスにかぶさり、本作の見せどころを作った。映画はかなりアナーキーといえ、癖のある仕上がりだが、佐藤が本作に付した調べは耳に付着しやすく、音楽を聴く楽しさを実感させる。本組曲を締めくくるにまさにふさわしい楽曲だろう。
●「ゴジラの逆襲 メインタイトル」[『ゴジラの逆襲』(1955/東宝)より]
1954年作『ゴジラ』の続篇にあたる。前作の東京に対し、本作の主舞台は大阪、後半では北海道に移る。凶悪性を滲ませるゴジラと新怪獣アンギラスが見せる生々しい死闘が最大の見どころとなる。日本製怪獣映画の特徴である怪獣同士の闘争は本作が嚆矢となった。終盤は、ゴジラを人間たちがいかに葬るか、に突き進む。神子島で防衛隊航空編隊が雪崩を発生させてゴジラをなかに封じ込める作戦を展開するクライマックスは、スペクタクル性に満ちる。小田基義は庶民的な映画に作家性を発揮する監督だった。海洋漁業パイロットの主人公をめぐる人間ドラマに小田の息遣いが感じ取れる。怪獣描写を売りとする映画にアクセントをつけた。興行は大成功を収め、日本映画界は新たな作品ジャンル“特撮怪獣映画”をここに得た。出演は、小泉博、若山セツ子、千秋実、志村喬、木匠マユリなど。
初めてのメジャー作品ゆえに佐藤は大いに燃えた。映画音楽の入学試験。そう位置づけて作曲に向かった。彼は実験精神豊かな音楽空間で要所を飾った。磁気テープの特性を活かし、テープの回転数を操作し、銅鑼やシンバル、ハープなどの音を逆回転、スロー再生させて加工し、と。無機質的なサウンドを積極的に付した。何か新しいもの、自分でしかできないことを試したい。そうした彼の意気込みはメインタイトル、雲海を背景にクレジットが打たれる箇所に乗る本曲からもすくい取れる。勇壮かつ躍動感にあふれ、観る者の感情を心地よく刺激する鳴りは、大空を翔ける男たちの心意気もうたうかのようだ。『ゴジラ』の続篇を手がけた彼の喜びも伝わってくる。試写後、東宝社内で佐藤の音楽が話題に上った。佐藤は映画音楽の入学試験に合格したのだ。彼にとって真の映画音楽デビュー作品が本作だった。このメインタイトル曲は映画音楽作曲家・佐藤勝の雄叫びでもあった。
●「ゴジラの息子組曲」[『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967/東宝)より]
怪獣映画ブーム只中に登場した本作は、子供たちの興味を駆り立てるためにゴジラの息子“ミニラ”誕生を前面に押し出した。南海の孤島でゴジラとミニラ親子が新怪獣カマキラス、クモンガと闘いを繰り広げる。ターゲットは当然児童だが、SF志向が強く、空想科学映画の旨味が効いている。とはいえ、観客の関心はミニラに集中する。監督の福田純、脚本の関沢新一と斯波一絵は、子供たちの受けをあからさまには狙わず、ミニラを肩肘張ることなく描き上げた。福田の演出も堅実で、特に映画後半からの熱を帯びた劇展開は観る者を釘づけにする。灼熱の太陽に覆われる熱帯描写から始まり、極寒のなか、豪雪が降り注ぐ映像で終幕を迎える映画構成も劇空間の広さを味わわせる。舞台の転換が映画的カタルシスを生んだ。出演は、高島忠夫、前田美波里、久保明、平田昭彦、佐原健二など。
佐藤勝の登板は、名コンビを築いていた福田純からの指名による。本作には佐藤映画音楽を形成する種々の響きが内包されている。彼は多くのテーマ曲を映画に与えた。ゴジラ、ミニラ、カマキラス、クモンガ、ヒロインのサエコ、シャーベット計画実験隊、冷凍ゾンデ、合成放射能ゾンデなど。音の色艶を重視し、聴覚から個性を訴えかける楽曲で対象を表現する。各主題曲を軸とした音楽構成が映画を華やかに彩る。重量感を漂わせるゴジラ、コミカルで無垢なミニラ、その対比も鮮やかだ。カマキラスのテーマはアヴァンギャルドで実験色豊かな鳴りを聴かせる。佐藤の懐の深さに想いを至らせる名曲といえる。一方、サエコを奏でる情緒に満ちてきらびやかな楽曲が人間味を醸し出す。音色、旋律、律動を操る佐藤の奥義がさりげなく伝わってくる。映画後半は佐藤の音楽演出が一段と冴えを見せる。色彩感を強調した複数の音楽成分が入り乱れ、劇展開に正面から応じる。佐藤の真骨頂とみなされる。彼の音楽は実に豊かだ。佐藤は常に口にしていた。映画音楽で大切なのは何より音色だ、と。こうした映画音楽理念が本作からは容易につかみ取れる。
●「ゴジラ対メカゴジラ組曲」[『ゴジラ対メカゴジラ』(1974/東宝映像)より]
「ゴジラ生誕20周年記念映画」。異星人に操られたゴジラ型サイボーグのメカゴジラに人類の守護神・ゴジラが立ちはだかる。福島正実の“原作”を関沢新一が脚色し、福田純が演出した。異星人による地球征服計画、その手先であるメカゴジラとゴジラを中心とする怪獣対決が見せどころを作るが、当時、高度成長の波が押し寄せていた沖縄の現況もさりげなく描かれる。本土と沖縄の微妙な空気感が絶妙な香辛料をつとめた。『日本沈没』(1973)で東宝の第3代特技監督に就任した中野昭慶のゴジラ映画における特技監督デビュー作でもある。メカゴジラは中野のデザインによるもの。ゴジラのブリキ玩具の表面を叩いてをつけ、メカニカルでシャープなゴジラのイメージを徐々に膨らませていったという。出演は、大門正明、青山一也、田島令子、平田昭彦、岸田森など。
佐藤はスウィング・ジャズを基調とする、音色と旋律を立てた音楽空間を導いた。打楽器と金管楽器が小気味よく鳴りわたる東宝マークから佐藤は自己の音楽特性をあふれさせる。音楽構成は怪獣の主題を中心に進む。メカゴジラの主題曲は圧巻といえ、ゴジラ、キングシーサー、メカゴジラが入り乱れるクライマックスの鳴りは鮮烈きわまりない。パワフルかつリズミカル、スウィング感を打ち出すアグレッシブなサウンドが受け手の感情を刺激した。重低音金管楽器を核とした、重量感に満ちたゴジラの主題の響きは、佐藤版「ゴジラのテーマ
の最終形となった。ではあるが、音楽世界の根幹をなすものは怪獣主題ばかりではない。沖縄の景観映像に流れるメインタイトル曲、琉球音階を用いた、民謡色を強く漂わせる楽曲が耳に焼きつく。ここから発展したきらびやかな音色による旋律、キングシーサーの動機が要所にちりばめられたことで、本作は常に沖縄の風土、空気感をまとうことになった。佐藤は場面内容に添った表現音楽、状況に応じた音楽を的確に配置する作曲家だった。その特性を本作における彼の音楽采配は強く訴えてくる。
------コンサートについて------
佐藤勝は、黒澤明映画をはじめ、岡本喜八映画、ゴジラシリーズ、山田洋次の黄色いハンカチなど、日本映画黄金期の傑作映画を音楽で演出しました。しかし、これだけ有名な作品ばかりなのに、コンサートで上演されたことがほとんどなく、譜面も散逸しているのです。
今回、御遺族や、映画会社などに残された譜面や資料を解読して、オリジナル音源と比較・検証。美術品の修復にも通じる復元作業を経て、日本映画の文化遺産が生演奏で甦ります。7/30は日本映画史にとっても重要な1日となるでしょう!
詳細はこちら
https://www.3s-cd.net/concert/jpn/ms/
佐藤勝のダイナミックで痛快なサウンドがよみがえる!
https://www.youtube.com/watch?v=e1DCukAucVM&feature=youtu.be
コンサート詳細
佐藤勝音楽祭
2017年7月30日(日)開演14:00(開場13:30)
渋谷区総合文化センター大和田4階さくらホール 演奏予定曲目
山田洋次監督映画より
幸福の黄色いハンカチ(1977)
岡本喜八監督映画より
独立愚連隊(1959)、肉弾(1968)、吶喊(1975)
黒澤明監督映画より
隠し砦の三悪人(1958)、用心棒(1961)、赤ひげ(1965)
ゴジラシリーズより
ゴジラの逆襲(1955)、ゴジラの息子(1967)、ゴジラ対メカゴジラ(1974)
指揮:松井慶太
オーケストラ・トリプティーク
男声合唱:佐藤勝記念合唱団
構成・復元:青島佳祐
司会:小林淳
SS席(前売):7,500円
S席(前売):6,500円
A席(前売):5,000円
B席(前売):4,000円(税込)
https://www.3s-cd.net/concert/jpn/ms/
カンフェティチケットセンター(質問窓口:03-6228-1630、チケット購入:0120-240-540)
協力: 佐藤家、喜八プロ、東宝ミュージック
佐藤勝音楽祭実行委員会: 中野昭慶(実行委員長)、小林淳、八朝裕樹、西耕一、鈴木正幸、内原康雄、山口翔悟、須賀正樹、早川優
制作:スリーシェルズ、ジャパニーズ・コンポーザー・アーカイヴズ
協賛:NCネットワーク、日本電子
プレトーク
中みね子(映画監督・岡本喜八夫人)
佐々木淳(編集者/東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
■本編トークゲスト
樋口真嗣(映画監督)
樋口尚文(映画監督)
■小林淳(司会)
■本件や所属・関連アーティストに関するお問い合わせは下記までお願い致します。
株式会社スリーシェルズ
〒170-0013 東京都豊島区東池袋5-7-6-604
TEL:070-5464-5060
http://www.3s-cd.net/
メール jcacon@gmail.com
担当 西
株式会社スリーシェルズ
〒170-0013 東京都豊島区東池袋5-7-6-604
TEL:070-5464-5060
http://www.3s-cd.net/
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担当 西