神武天皇が実在するかのような政治家の発言や歴史認識が物議を醸す昨今。
歴史学の最先端の知見をもとに、今なお歴史の記述に深い影響を及ぼす
『日本書紀』の実相をわかりやすく紹介します。
「『日本書紀』の呪縛」
著者 吉田一彦(よしだ・かずひこ)
11月17日(木)発売
定価:本体760円+税 ISBN 978-4-08-720859-7
http://shinsho.shueisha.co.jp/
『日本書紀』は、今からはるかに遠い過去の養老四年(720年)に完成した書物である。そうした昔の本は、現代の私たちとはほとんど関係しないのが普通である。だが、この書物は少し違う。『日本書紀』は、21世紀を迎えた今も、私たちの中に一定の位置を占めて生き続けている。遠い過去の書物でありながら、過去の遺物にはなっておらず、今もなお意味を持つ書物、それが『日本書紀』だと私は思う。
(中略)
『日本書紀』は、その後、奈良平安時代の人々の歴史意識の根幹を規定し、武家政権の時代になっても一定の影響力を保持していた。近代になると、明治の新政府は、天皇の政治への復活、ナショナリズムの発揚などにあたって『日本書紀』を重視し、学校教育を通じてその記述内容を教えた。国のはじまり以来の、いわゆる〈古代史〉については『日本書紀』の中身を国民に「歴史」として教えた。戦後、日本の歴史教育は変わり、『日本書紀』に依拠する部分は戦前に比べると減少したが、それでも同書に依拠する記述は歴史教育の中に残り、今も一定の位置を保っている。(本文より)
【目次】
第一章 権威としての『日本書紀』
第二章 『日本書紀』の語る神話と歴史
第三章 『日本書紀』研究の歩み
第四章 天皇制度の成立
第五章 過去の支配
第六章 書物の歴史、書物の戦い
第七章 「国史」と「反国史」・「加国史」
第八章 『続日本紀』への期待、落胆と安堵
第九章 『日本書紀』の再解釈と偽書
第十章 『先代旧事本紀』と『古事記』
第十一章 真の聖徳太子伝をめぐる争い
第十二章 『日本霊異記』――仏教という国際基準
終 章 『日本書紀』の呪縛を越えて
【著者プロフィール】
吉田一彦
1955年東京都生まれ。日本史・仏教史学者。名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授、博士(文学、大阪大学)。1986年上智大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。『古代仏教をよみなおす』、『仏教伝来の研究』(吉川弘文館)、『民衆の古代史』(風媒社)ほか多数。編著に『変貌する聖徳太子』(平凡社)等がある。
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