背景:
うつ病治療というと、「早期に専門医にかかる」、「とにかく休息を」というのが一般的な指針であり、その治療は抗うつ薬が中心である。抗うつ薬もSSRIやSNRIという新しい薬が開発され、薬の安全性が高まったため、比較的安心して抗うつ薬を服用できる環境となっていた。
ところが現状を見ると、薬の進化とは逆に、うつ病患者や自殺者は増え続けるという結果となっており状況は厳しくなるばかりである。現在のうつ病治療対策には多くの問題点があると認めざるを得ない事実が明らかとなってきていた。
そのような中で、NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」は、うつ病の最近の動向、治療法、治療環境、取り組み方、海外事例等々、様々な視点から問題提起を行い、われわれに考えさせる機会を与えた。その結果、インターネットで「うつ病治療 常識が変わる」と入力して検索すると、無数のブログがこの放送に反応して情報を発信する結果に至っている。
番組の要点:
NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」: http://www.nhk.or.jp/special/onair/090222.html
(1) うつ病が多様化、難治化、長期化しており、治療が今まで以上に難しくなっている。
(2) 簡単に開設できるメンタル・クリニックの乱立により、技量が十分でない医師が増えている。その結果、過剰な抗うつ薬の処方によって病気の症状なのか薬の副作用なのか区別がつかず、被害を被っている患者が現れだした。
(3) 日本うつ病学会理事長自ら、良い医師を選択して受診する必要があることを説明し、医師という「聖域」に大きくメスを入れた。
(4) 新しい診断法として、脳の画像撮影によって脳血流を調べることで客観的な画像診断が出来る方法が紹介された。抗うつ薬以外の治療法として磁気刺激療法が紹介された。
(5) 認知行動療法を柱として、抗うつ薬の使用を最小限に抑え、再発率を低く抑えて成果を上げているイギリスの対応策が紹介された。
インターネット上での議論:
インターネット上での議論は、上記にまとめた要点のすべてに対して、様々な角度や立場から議論がされており、とてもすべてを紹介できるものではない。それだけうつ病をとりまく環境が広範で複雑であることを痛感する。
敢えてそれらの中で議論の多かった項目をあげると、イギリスが国策として行っているアプローチだ。認知行動療法によるカウンセリングをうつ病治療の柱として、抗うつ薬の使用を最小限に抑え、実際に再発率を低く抑えて成果を上げている実績が、多くの人の関心を集めている。
うつ病は元々心の病である。それを薬で治すのではなく、心理療法で治そうとするアプローチに共感する人が多かったのではないだろうか。
さらに、そのカウンセリングを無料で受けられるようにしたイギリスの思い切った国策と、カウンセリングが未だ保険適用外である日本との歴然としたギャップが皆に悲観的な印象を与えたようだ。
また他の項目としては、抗うつ薬に偏った治療に批判的な立場をとる人がおられる反面、うつ病治療には、抗うつ薬を含めて、カウンセリングやその他の幅広い対処方法が、その患者の状態に対して適切なタイミングで行われることが必要であると指摘する意見もあり、議論の深まりを感じた。番組の中でも、家族や地域の支援を指摘する声も上がっていた。
当光療法推進委員会は、2008年9月に「光療法がうつ病治療に有効であることが実証された」ことをプレス・リリースして広く世間に紹介した。抗うつ薬に偏った治療への一つの投げかけであった。しかし、光療法も一つの治療法にすぎず、番組で紹介された磁気刺激療法や、紹介はされなかった断眠療法なども選択肢の一つとして適切に適用されるべきと考えている。
「うつ病治療と光療法」: http://portal.lighttherapy.jp/patient/post_111.html
総括:
NHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」は、インターネット上のブログを見る限り、多くの人々の関心を高め、現在のうつ病治療の在り方をなんとか改善しなければならないとの「芽」を創出したように感じる。
そして、うつ病対策、自殺者対策が上手く機能していない日本の現状を見る限り、ここでこの「芽」をそのまま放っておくのはあまりにももったいない。実際にうつ病患者や自殺者を減らして行くためには、さらに多くの人々の関心を高めて議論を深め、効果を発揮できる具体的な施策にまでつなげていく活動が必要である。
NHKには、この番組を更に発展させ、論点を絞った続編を2,3回に分けて是非とも放映してもらいたい。それが公共放送の価値であり、民放にはできないメディア活動であることに間違いはないだろう。
≪プレスリリースに関するお問い合わせ≫
光療法推進委員会 管理人: admin@lighttherapy.jpへメールでお願いします。